両思い 等々力央二の場合


 普段あんまり家に居つくことの少ない俺が朝から家で料理の下準備を進めている。

 ただ家に居てると言うことが物珍しいのか、家で料理することの無い俺が料理しようとしているのが物珍しいのか、視線が煩わしい事この上ない。

 篤郎が匂坂さんに料理を作りたいと、わりに乙女な事を言い出したからその気持ちに覚えのある俺は、篤郎に協力することにした。ただそれだけやったんやけど、親父の奴、

「お、今日は手料理か? クリスマスやしなあ、央二。 煌紀だけじゃなくてたまには食わせろ」

って、飛び上がるようなことを口にする。その後ろでくつくつと笑う匂坂さんが見えたもんやから、親父に対して単細胞で、超瞬間湯沸かし器な俺が、いつになく冷静に

「俺ちゃうし、料理するの。 なんか篤郎が食わせたい奴いるらしくて教えてくれって。 料理なんて興味もない奴がどういう風の吹きまわしだか」

と親父に向かって言いながら、匂坂さんに聞かせる。

 ちょっと嫌な奴やったかな? と思ったけれど、笑みが消えて険しい顔になった匂坂さんをみて、なんだ、この人ちゃんと篤郎のこと、好きなんだ、と理解した。

 親父は親父で後ろをちらりとみて人の悪そうな笑みを浮かべていたから、何でもお見通しなんやろ。

「今日はクリスマスやしな、煌紀もさっさと解放してやるか。 おう、匂坂、お前も用ないなら早よ帰れや」

「はあ、別に家帰っても用ないんですけど」

「クリスマスやのにか? お前、そう言えば篤郎と一緒におったらしいな。 浮ついた気持ちで連れまわすなよ、ガキを」

「……浮ついた気持ちってなんすか?」

「浮ついた気持ちは浮ついた気持ちや」

「……今日はやっぱり早く帰らせてもらいます。 親父の暇つぶしに弄られるの適わへんですわ」

「ああ、そうせえ、そうせえ」

 ひらひらと手を振り庭に向かう親父を送り出し、匂坂さんを見れば苦虫つぶしたような顔で空を見つめていたけど、俺の視線に気づいたんか、会釈して出ていった。

 俺も、そろそろ篤郎が来るだろうと玄関に回ったが、庭の方から声が聞こえたように思ったのでそっちに回ってみると案の状、篤郎はそっちにいた。

「あれ、篤郎、こっちにおったんか」

「央二ぃ、お前の親父なんとかしろよ」

「いや、無理」

「だよなあ」

「うん。 まあ、親父の事なんか気にせんで、さっさとやるぞ」

「おー」

「気のない返事」

 何もしない間からげっそり疲れた表情の篤郎に、ああ、親父になんかからかわれたんやなあと笑えば、篤郎もほにゃりと笑う。

「親父、篤郎のこと気に入ってるからなあ。 でも匂坂さんの事も気に入ってるから、多分心境は娘を嫁にやる感じ? それか身内に嫁もらった気分?」

「いやいやいや。 しかも俺瑛二とどうなるかまだわからんじゃん」

「……目に見えてるけどな」

 さっきのあの押し問答を見た俺はそこは言うつもりはないが、こっそりと溜息つき、篤郎とキッチンへ向かった。

 篤郎は料理ほぼ初めてなくせにいかにもクリスマスっぽいメニューを作りたがったけど、それはことごとく却下して、比較的簡単で、きちんとクリスマスらしいくなるメニューに変更させた。やり始めてすぐはぶつぶつ文句を言っていたけど、なかなか不器用な包丁捌きに時々怪我をすると何も言わなくなり、ま、多分無理と悟ったんやと思うけど、時間を忘れるくらいに没頭して、何とかうまい事仕上がった。

 その頑張りを見ていた俺は、心底応援してやろうと思っていた。

「がんばれよ、篤郎」

 そう、篤郎を送り出し、さて、バイトも休みとってることだし煌紀も早く終わるって親父言っていたし、と言い訳しながら煌紀と過ごすことに思いを馳せた。



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