作戦会議 七竹煌紀の場合
ぐじぐじと悩んでいた奴らの期末テストの結果は見事に真っ二つに割れた。央二は悩み抜いていまいちな結果。篤郎は悩むことを放棄して意外に上出来。かくいう俺は相変わらず結果。弱冠進学を意識した分ちょっと上がったかなって言う程度。面白い。
とはいっても試験が終わっていしまえば篤郎も悩んでいることから逃避することができなくなってまた悩み再開している。馬鹿馬鹿しい。俺から見れば悩まんでも答えなんて分かりきっているのに、日に日に思い詰めていくのが分かるから分かりやすい奴。そろそろこいつの愚痴なんか惚気なんかわからん話を聞いてやらんかったら爆発しそうやな、と思っていた矢先に篤郎から声がかかった。
「なあ、煌紀」
「あ?」
「瑛二に思ってること言おう思うんやけど……」
「いんじゃね?」
「央二貸して」
「はあっ?」
匂坂に思っていることを告げるのはわかる。それになんで央二が出てくるんか、こいつ思い詰めて思考回路ぶっ飛んだか? と思わず疑ってしまった俺の素っ頓狂な声は、耳ざとく央二が拾い上げ、ちらりとこちらを振り返ったが特に何も言ってこない。
こいつはこいつで面倒くさいな。
「いや、せっかくクリスマスやし、どうせいつ帰って来るかわからん瑛二なんやから、料理でも作って待っとこうかなあ、て」
思わぬことを言い出す篤郎に、俺は
「乙女やな、篤郎くん」
と、思わずにやにやと笑って返せば、恥ずかしそうな素振りを見せながら篤郎は拝むように
「頼む」
と言ってきた。
「いや、俺じゃなくて央二に言ってやれよ」
「いや、クリスマスやし、煌紀が嫉妬せんかなと思って」
飲んでいたコーヒーを吐き出しそうになるのを堪えた俺は盛大に咽た。何、お前匂坂にいろいろ嫉妬したわけ? なんて口にできる事も無く
「……なんで、お前に嫉妬せなあかんわけ? 匂坂が好きやあって全身で言ってるお前に。 それ、俺がめちゃ空しい」
央二が篤郎のことが好きで好きでって態度やったら嫉妬もするやろうけど、とは言わない。
「ほんま、老成してるよな」
「大人や言うてくれるか、篤郎くん? もしくは心広いか」
「自分で言うてたら世話ねえよ、央二っ」
ぽかりと殴られた頭を白々しくさすりながら、央二に声を掛ける篤郎に、
「俺の頭を気安く叩くんはお前ぐらいなもんや」
と言えばちらりと視線を向け、すぐに俺のことは無視して央二に声を掛けている。
「央二、悪いけど料理教えて」
「いいけど」
訝し気に篤郎を見る央二に脈絡もなくいきなり
「俺、瑛二に思いを伝えることにした」
と告げるのを聞いて、ああ、頭が痛い。訳の分からないままにそう言われて
「はあ?」
と言いながらも央二が日程を調整しているのを見ながら、早くくっついてしまえと暢気に思っていたら、央二には“瑛二”が誰か思いつかなかったようで
「ところで、瑛二って誰?」
と爆弾を投下した。
一瞬時が止まり、篤郎は目を泳がせ、心持赤面して、俺は噴き出した。
「いや、だから誰? 俺知ってる人? よなあ、篤郎の顔見たら」
「匂坂」
咽るように笑いながら、行きも絶え絶えに央二の良く知る人の名前を挙げれば、心底びっくりしたような顔になり
「え? 匂坂さん? あの人匂坂瑛二って言うんや、へえ」
と、妙な関心をしている。
「そこかよ、突っ込むとこ」
どんな状況になっても篤郎は篤郎で、央二は央二で、この先、俺は俺でいてられるだろうかと少し考えてしまった。
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