定期考査 七竹煌紀の場合
もうすぐ試験やと言うのに、くだらんことにごちゃごちゃ悩んでる奴らが身近に二人。正直、うっとうしい。
特に何か言われたわけでも相談されたわけでもないけど、篤郎にしても央二にしても悩んでますって顔に書きすぎや。特に篤郎は悩みだしたらとことん悩む質やから、どんどんと悪い方に悪い方に考えてるんが手に取るようにわかる。
試験開始まであと数日って言う時、ふ抜けた状態の篤郎があんまりみてられへんから、央二がおらん時見計らって篤郎の頭を遠慮なしにスパンと叩いた。
「痛ってえな、煌紀」
返ってくる言葉はいつもと変わらない。ちょっと安心して
「そりゃ痛いやろ、殴ってんのやからな」
と言えば、篤郎はきょろきょろと教室の中を見渡す。
「央二ならおらん。 ……匂坂となんかあったんか?」
と、さっさと本題を切り出した。篤郎は大げさにびくりと体を震わせて、なんか俺が苛めてるみたいで胸糞悪い。
「……終りやて」
ぽつりと呟くように零したその言葉はとても弱々しい。
「……そうか」
「なあ、煌紀、自分のこと棚に上げて言うのもなんやけど、瑛二、なんで急にそんなこと言いだしたんやろ」
そんなの一つしか考えられへんと思うんやけど、俺は。
「大人の了見じゃねえの?」
「大人の了見?」
「自分はやくざや。 篤郎はいくらやんちゃしてようと高校生や。 お前の寂しさに付け込んでそういう関係になったこと、いろいろ考えたんじゃねえの?」
「……」
「乙女やな、篤郎くんは」
とからかえば、篤郎は心底嫌そうな顔をして
「お前、気持ち悪り」
と言ってきたので容赦なくどついてやった。
「ちょっとは自分の気持ちや匂坂の気持ちに向き合ってみ。 お前、もう分かってんやろ、自分が誰の事を考えてんのかくらい。 あ、それと、篤郎、親父から。 次の試験で赤一個でもとったらお前の進路うちの組やて」
ついでに爆弾も投下しておく。
「はあぁ? 何勝手に決めてんのやあのくそ親父」
「面と向かって言えたら男前なんやけどなあ、篤郎」
「言えるか、あほ。 僧堂の親父は怖いわっ」
「じゃあ、試験頑張っていい点とったら匂坂に告白でもしいや、クリスマスも近い事やし」
「言われんでもそうする」
怒ったように言う篤郎に俺はにやりと笑った。答えはとうに出てるのに全く気付いてへん篤郎が、嫌そうな顔をしていた。
匂坂に言うといてやろう。試験が終わったら重大発表がありそうや、と。
篤郎のことはこれである程度解決やろうけど、問題は央二。でも、これは俺の問題や。もちろん篤郎が匂坂と付き合い始めれば自ずと央二の問題も解決やけど、そんなのは性に合わん。俺の答えがはっきりすれば央二もすっきりするやろうし、さっさと片付けておこう。すっきりして試験に挑みたいし。
「央二」
「なに?」
「今日は久しぶりに一緒に帰るか?」
「いいけど、俺バイト」
「分かってる分かってる。 別にどこも寄り道せんわ」
試験前でもお構いないなしにバイトを入れるブレへん央二が、俺はやっぱり大切やと思った。
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