文化祭 七竹煌紀の場合U


 祭りの後は寂しい、言い得て妙だ。

 文化祭で飾られた教室が徐々にいつも通りに戻って行くのを見ていると、束の間の息抜きが終わったように感じる。馬鹿馬鹿しいお祭り騒ぎもすでに懐かしい。

「楽しかったな」

 央二のにこやかな顔はまだまだ祭り真っ只中のような余韻を残していて救われる気がする。

「ああ、そやな」

 そのまま黙って黙々と片付けに精を出す。央二との無言は居心地がいい。これが篤郎でも居心地は悪くないんやけど、央二の拉致事件の後から一つ気になってることがあるからどうしても窺ってしまう。

 文化祭に匂坂が来ていたことに篤郎は気づいてなかった。もっとも表から入ってくることはせず調理スペースに居ったようだが。匂坂のことに俺はそんなに詳しくないが、いつも飄々としていて、誰かとつるむと言うのはあんまり見ない。かといって組事を疎かにするわけではなく、若い奴の面倒見も悪くない。不規則な拘束時間の中にあって、一人まるでどこかの企業に勤めているように決まった時間に事務所に来て、ほぼ決まった時間に帰って行く。もっとも事務所でずっと座っている訳ではなく、この間のように篤郎と居ることもあるんやろう。得体が知れない。信頼に値する奴だがこの言葉が一番似合っている。

 篤郎の気持ちが、時々自分に向いていることは知っている。それに俺が答えられへんから気づかないふりをする。篤郎も口にする気はないようなので、篤郎を失うのが惜しいと思っている俺は篤郎が口にしない限りは沈黙するつもりや。

 あれから観察していて感じたのが、篤郎の気持ちが揺れ動いている事や。確かに俺に向いている時もあるが、匂坂に向いてるんやろうなと感じることも多々ある。篤郎は決して自分の気持ちを言わないけれど、あいつはああ見えてそんなに器用やないから、そんなにいろんな奴に気はいかん。その篤郎にも気づかれない様に、やっぱり年上やなと言う気概で隠しているのが匂坂。あいつの隠している恋情はかなり激しい。怖いくらいや。そして多分あいつは篤郎の俺に向いている気持ちを知っている。俺が央二に気がいっている事にも気づいている。それでも時に酷く鋭い気配を感じる。あいつの独占欲は、俺の気持ちがどこにあるかを知っても変わらないらしい。厄介な奴。

 俺だったら御免こうむりたい独占欲も、実は愛されたいキャラの繊細で寂しがりな篤郎にはちょうどいいだろう。篤郎の気持ちが匂坂に向いているんやからもうちょっと自分の気持ち隠さんで曝け出してやったらいい。

 篤郎は、責めるか。自分を。厄介な奴ら。

「なあ、煌紀」

「あ?」

「俺、やっぱり店やる。 なんかお前に家の事押し付けたような形になってしまったけど、文化祭で実感した」

「いんじゃねえの? 俺は、お前の跡目の可能性を取り上げたわけやし、お互い様。 央二、俺は嫌々稼業を継ぐんじゃねえよ。 俺が決めたことや」

「そっか。 そだよな。 じゃあ、お前が俺の店の大得意になるような場所に店構えるからな」

 あたりまえや。余所のシマ内においてたまるか。



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