文化祭 等々力央二の場合
気持ちいい。
出し物の結果、圧倒的一位は俺らのクラスやった。もちろん着物を着せれば怪しさ満載、漢度アップの煌紀や、何故か異様な哀愁と儚さと、そして妙なエロさを出す篤郎がいるんやから、他のクラスよりも有利だろうとは予測していたけど、まさか二位以下の追随を許さない結果になったんは驚きや。
本当。気持ちいい。やりきった感も心地いい。
メニューに関してはホントに初めはどうなるかと思った。ありきたりなメニューは仕方ない。だけどグラスに入れてストローを挿すだけとかありえへん。挙句の果てにはスポンジケーキにクリームを訳の分からん風に塗りたくってケーキなんてされた日には大絶叫や。許されへんかった。ひと手間を掛ければ同じものでも全然違うものに生まれ変わる。いずれは店をするつもりやけど、文化祭でそれを求めるつもりはない。ないけれどあまりの酷さに気がついたら
「ちょっと待てっ!! お前らそんなんで1位取れると思ってんのかよ」
と叫んでいた。
当日調理部隊のメンバーのキョトンとした顔は忘れられない。店をやった時絶対にこの話をネタにしてやる。
「ジュースをグラスに入れて出す、それだけで一位が取れるんかよ。 そもそもそのケーキもどき、『きゃー、美味しそう、食べたいー』って思ってもらえんかよっ」
「央二、お前意外と女のマネ上手いな」
「じゃなくてっっ」
「いや、だってよ、これ普通じゃね? まさかペットボトルのままはいって出すわけにいかんじゃん、なあ」
みんながウンウンと同意する。まあ確かに、俺らの日常は自販機でペットボトル買ってそのまま飲んでるけど。百いくらの世界だろ。文化祭の時も百いくらで売るつもりかよ。
「わかった、ちょっと待ってろよ」
俄然やる気が出た俺はなんかよくわからないポンチ風を作る為に用意された缶詰の中からみかんを取り出してグラスの下部に入れ蜜も少し入れておき、上から100%のオレンジジュースを足して細いストローを色違いで二本捻じって入れ、炭酸水を2センチほど足した。炭酸水はひとまず混ぜない。
「橙甘水、どうぞ」
と出してみた。
「マジ?」
「これがオレンジジュース?」
「いやまあ、確かに底にオレンジ入ってるけど」
「なんか三層になっててお洒落じゃん」
「それ、炭酸水入れてから運んだら混ざるかもやから、席で炭酸水足してもいいかもな」
「お、それ、いいじゃん」
「ていうか橙甘水って?」
「オレンジジュースって言うより和風ぽいかなって思ったんやけど、思いつかんかっただけ」
「おもしろいな」
そう言いながら飲んだ奴が
「あ、意外に普通にオレンジジュース」
と呟いた。いやいや、特別に何にもしてないし、見た目をちょっと変えただけで。それから大騒ぎをして色々メニュー名を出し合って、いかにしたらお洒落に見えるか考えて、でも売れるかどうかわからないもの、マニアックなものは徹底的に排除して、とにかく楽しんだ。まあ、一番悪ふざけした飲み物が、和風の中にあって少し異色の『深窓令嬢レイコ様』。なんてないただのアイスコーヒーにケーキの生クリームを一絞り拝借。終わってみれば男性客に相当売れていた。
こっそり来たのか、篤郎に声を掛けにくかったのか調理の場所にひょっこり現れた匂坂さんは、メニューを見て
「深窓令嬢レイコ様って、まじかよ」
とそこそこ強面の顔をくしゃくしゃにして大爆笑していた。
「いやあ、央二坊、今時アイスコーヒーを冷コーなんていう奴おらんでしょう。 ていうか今時の高校生に冷コーって分かる奴いるんですか?」
「さあ? わかんじゃねーの? 俺、わかるし」
更に大爆笑が深まったのは言うまでもない。
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