文化祭出し物 藤嶋篤郎の場合


 暢気やなあ。三者面談終わったらこれかよ。俺は、クラス中が文化祭の出し物決めるのにわいわい騒ぐのをどこか遠くから見物するような、我関せず? みたいな感じで眺めとる。なんか乗り遅れたような気分や。その中にちゃっかり入ってアホみたいに騒げてる央二がちょっと羨ましい気がすんのは多分気のせいや。うん、そう言うことにしとこう。ふと煌紀を見ればこっちは高校生らしくない顰めっ面してて多分自分では気付いて経んのやろうけど、なんやぼぉっとしとる。こんなガキの遊びに付き合ってられるか、みたいな顔で。なんやそれはそれでちょっと寂しい気もする。煌紀も考えてみたら不憫な奴よな。俺はこんな時でも進路どうしようって悩めるし、央二は僧堂の実子であってもはなっから煌紀に丸投げ状態で組全体も含めて跡取り候補にすら上がらんことを認められてる。そやけど煌紀は僧堂に引き取られた時から跡目候補であり、最近では上部への顔見せも済ませて僧堂組二代目組長の道をまっしぐらや。進学するいうんも自分のためやなくて組のため。

 どんどん大きくなって遠くなる煌紀は、高校生らしいことはすべて封印してきて冷めている。支えてやりたいって思う反面、自分にはなんもできへんことを痛感する。せめて、煌紀らしい時間を一緒に共有していたい、って思うんは俺の驕りやろか。遠くへ行ってしまいそうな煌紀をちょっとでも捕まえときたい。うん、やっぱり大学へ行こうかな。煌紀も家から通える範囲の大学しか選ばんやろうし、それやったらまぁ死ぬほど勉強せんでも良さそうやし。はあぁぁ。瑛二は全然アテにならんし。ちょっとくらい相談にのってくれてもいいのに、自分で考えなって放り出すし。や、その通りなんやけどなんかあの言い方むかつくんよな。文化祭の出し物を決める時間なんてことを完璧に忘れて、俺は瑛二に悪態ついた。





「最高売上のとこに商品でるんは去年も一緒やったやろ」

 央二の声に我に返った俺は、聞いてなかったんかと暗に責められてる煌紀を横目に黒板の汚い字で書かれた候補を見る。多分、煌紀以上に聞いてなかったからな、俺は。で…… なんやその見事に頭に和風ってつけました、な候補は。一応特色を出そうとしたわけね。どれもこれも必ず毎年何組かが被って選ぶ代物や。

 和風て何すんのやろ…… 着物着る、とか? 煌紀やったら黒の着流しで任侠映画風とか…… はまりすぎて危ないか…… 央二は金魚模様の浴衣やな、うん。子供扱いすんなって怒る顔が思い浮かぶな。なんてアホなこと考えとったらバシッと痛そうな音と共に、

「痛いんじゃ」

と威勢のいい央二の声。こいつらほっといたらまたいつものこれや。ほんまに勘弁してくれよ。おちおち考え事も出来へんわ。やれやれとため息を隠して、

「まあまあ」

といつもの俺。

「で、薄利多売な喫茶とたこ焼きはともかくとして、なんやねん、ホストクラブって」

 煌紀がうんざりと言うように委員長に尋ねとる。話題性? なんて委員長が間抜けな答え出すから煌紀は一瞬にして機嫌が悪い。おいおい、こいつ意外と短気なんやから。ため息混じりにフォローする俺って優しい。

「高利多売狙いやろ、普通に」

 ボソッと呟く。

「ホストクラブか」

と煌紀がため息と共に呟くから、

「他にあんのかよ」

と俺も盛大なため息と共に返してやった。たまには煌紀も高校生に戻ったらええねん。自分から戻られへん言うんやったら俺が引きずり戻してやる。

「煌紀、たまにはガキの時間もいんじゃね?」

 俺の言葉ににやっと笑う煌紀が黒い。俺はそんな煌紀が好きや。どこか瑛二に似てるって頭の中で警鐘が響いとったけど。大人の時間なんて嫌でもあっと言う間に来るんやから。せめて今くらい、子供でいいやん。

「えぇっと、結局ホストクラブ? でいいんか?」

 委員長が戸惑ったように口にしと、黒板の和風ホストクラブに二重丸を書いていた。





 後から考えたら、俺と煌紀、央二、三人のバランスが狂い始めたんは多分この時やったと思う。それはほんの数ミリくらいの歪みやろうけど、確実に均衡を破った。



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