第2章 09


 ゴールデンウィーク初っ端から懐かしい再会をしたおかげか、黒守は今までと違った休みを過ごし、学校が再開されてもまだその余韻の中に暢気に浸っていた。

 成久にも連絡を取り、一蓮托生に休みの間入り浸るように足を運んだ。

 まるで今までの時間を取り戻すかのように濃厚な日々で、とても新鮮だった。その分晴陽が寂しそうにしていたが、それでも嬉しそうに送り出してくれたのが忘れられない。

 学校が始まれば成久とは休み前よりも親密に連れるようになり、それがまた周りを刺激しているのだと言うことは肌で感じていたが、気にもならなかった。

 一年の誰が二年ので誰をやっただとか、三年の誰にやられただとか、きな臭い情報は逐一成久から入ってきたが、黒守には興味のない事だったし、それよりも目前に迫ってきた中間試験の方がはるかに問題だった。それを成久に言えば大爆笑していたが、仕方がない。

「で、黒守はどの教科が苦手なわけ?」

 遠慮のなくなった成久のもの言いが嬉しいが、聞かれた内容は全く嬉しくない。

「……全部」

「……全部、ね。 ちなみに授業の理解度は?」

「……あると思うか?」

「いや、ないだろうな」

 散々な言われ方だが、こればかりは仕方ない。

「だけど、多分動き出すの、試験期間中な気がするんだよな」

「は?」

「いや、そろそろ一年のトップ決めるの。 結構先輩方に潰されてるから、有力な所が統一するんじゃねえの? 今の所一番の目ざわりは俺ら」

「このくそ忙しい時に?」

「いやいやいや、はっきり言って試験なんてどうでもいい人たちばかりでしょ、この学校」

「……俺はよくない」

 若干子供っぽい言い方になったなあとは思ったが、黒守は不機嫌丸出しで成久を見る。

「本当、誰も黒守のことをレンとは思わないだろうな。 まあ、俺は今の方が好きだけど」

 恥ずかし気もなく好きだと言う成久に、黒守は恥ずかしい奴と呟いたが、成久には届かなかったようで、ん? と言う顔をして見られたが、黒守に伝える気はない。

「はあ、でもどうするよ? 俺は争いごとにさえならなければどうでもいいんだけど」

「その有力な所が統一すればいいんじゃねえの? いまさらそんなガキ臭いことする気はねえよ」

「……」

 ジト目で見られたが、黒守にはまるで興味のないことだから仕方がない。かといって言って聞く相手ならこんな話に巻き込まれる事も無いわけで、成久とてうるさく情報を流してくる事も無い。

「……その有力なとこ、分かってんの?」

「まあ、一応」

「じゃあ、先に叩くか? 俺はとにかく試験がやばい」

 
真剣に試験の事を心配する黒守に、成久は人の悪い笑顔を浮かべて

「了解。 じゃあ、今日の放課後にでも片付けますかね」

とさらりと言うから、黒守も一つ頷き教科書に没頭した。

 反対に成久はスマホを取り出しあちこちに連絡を取り始める。任せておけばいいようにやるだろうと、黒守は全く気にしていなかったが、成久の間抜けなあっと言う声に顔を上げた。

「そう言えば、そこの有力なとこ、なんかやくざと繋がってるとか言う噂があるんだよな」

「へえ」

「定かじゃないし、その噂の出所も掴めてないけど……ちょっと調べた感じじゃ勝手に名前使ってるだけみたいなんだけど、実際はわかんないよなあ、と思うわけだよ、俺は。 どうする?」

「どうするも何も、こんなたかがガキの縄張り争いにやくざが出てくるわけないだろ。 問題ねえよ」

 出てくるわけがない、という驕りにも聞こえるし、出てきたところで気にする必要もない、という虚勢にも聞こえるが、黒守はそれ以上は何も言わず教科書に目を落とした。成久はその姿に当時のレンを思い出しながら、昔とは状況が違うのだからと、自分の使えるものはすべて使ってやると意気込みながら、密かに根回しも始めた。久々に頭が冷えていくのを感じた。冷たいと称される成久だが、今回ばかりは少し高揚としていた。

 そんな成久を肌で感じながら、黒守はいよいよ面倒臭いことになったと密かに溜息ついた。



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