第2章 03


 成久はニヤリと笑い

「なぁ神薙」

と、改まって呼び掛けこの話は終わりだと暗に告げる。

「お前も巻き込まれるだろうけどよ、俺も巻き込まれんだよ」

 まるで未来を暗示するように、他人事のように言う成久に、黒守は苦笑しながら黙って続きを促す。

「俺のことは隠してる訳じゃないから大概の奴は知ってる。 今俺に手を出してこないのは手中に納めたいやつらが互いに牽制してるからであって、俺が強いからじゃない。 はっきり言って俺は喧嘩できへんし、弱い」

 隠すわけでもなく言い切る成久に、黒守は唖然とした。確かに成久は真面目には見えないものの、この学校の不良達とは違い妙に優男系の顔をしている。黒守より少しばかり低い身長だが、決して小さいわけではなく、しかしひょろりと言う言葉がぴったりな体型で、喧嘩ができる風ではない。にっこり笑っていれば女の子を何人も一瞬で落とせそうな風貌で、誰も暴走族の一員だったとは思わないだろう。

「そこで、だ。 物は相談だが、手を組むってのはどうや?」

「いやいや、お前、今めちゃはしょったやろ」

 ガクッと、まさにその言葉しか当てはまらないと言うくらい盛大にガクッとして黒守は思わず突っ込んだ。

 テヘっと笑う顔は女受けしそうに格好良いものだったが、黒守はなんだか無性にイラっときて軽く成久の頭を叩いた。

「笑ってごまかしてんじゃねぇよ」

「じゃあ、お友達になりませんか」

 はぁっと盛大に溜め息吐いて

「お前、棒読みすぎ」

と、どこかおちゃらけた成久を見て

「よろしく」

と呟いた。

「え。 マジOK?」

 ちょっと意外そうな成久のその顔が面白くて、黒守は思わずクスリと笑う。

「いやいやいや、そこ、笑うとこちゃうから。 自分で言っといてなんやけど、めちゃ緊張したし。 タメ口バリバリな俺のこと怒るかなぁとか」

「学校生活、お前の方が先輩やし」

「それですませるわけ? なんかイメージガタガタやわ」

「どんなイメージしてたんだか」

 はぁっとまた溜め息が出てしまった黒守は、手の掛かる弟持つとこんな感じだろうかと、翔が自分に抱いていた感覚もこれと一緒だったら悪いことをしたなあと、居たたまれなくなった。

「でも、ほんまに神薙、仕掛けられるよ」

「別に自分に降り掛かる火の粉を被る気はない」

「気を付けろよ」

「ああ」

 自分の身を心配してくれる成久に、黒守の心はほわんと暖かくなる。

 今まで近づいてきた人間は、黒守に対して畏怖を抱いていた。その上で、黒守と群れていればいい思いができるだろうという浅はかな考えか、もしくは恐怖の中の憧れ。純粋に友達と呼べる人間が果たしていたのか、正直疑問である。

 黒守を知っていて、恐れもなくただ対等にいてくれる成久は新鮮で、始めての友達に歓喜した。

 高校にいかないと晴陽や熙一郎に言った時、学校は勉強するだけのために行く訳じゃないと諭してくれた理由がわかった気がする。

 成久が情報屋であることを理解している。もしかしたら自分の情報を得たい為だけかもしれない。それでもいい、もっと知りたい、と、黒守にとって始めての感覚に少し気持ちをもて余しながらも切に願った。

 ゴールデンウィークまでの数日、黒守と成久はいかにも高校生らしいたわいもない話に盛り上がり、周りの微妙な空気を蹴散らしとにかく平和だった。

 時々成久が持ってくる何年の誰と誰がぶつかっただとか、どこの勢力が有力だとか、誰が潰されただとか、物騒な情報に黒守はいちいち気のない返事をしながらも、それでもしっかりと頭に入れていた。大半は誰だか理解はしていなかったが、現状の把握は少しずつできていた。

 自分が遠のいていた世界に少しずつ戻っていく感覚と、それが少し昔と違うことに、黒守の血が静かに騒いだ。



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