第2章 02


 桜も散り生き生きと木の葉の緑が輝きはじめ、早くも入学式から二週間たった頃、黒守はようやく一人暮らしに慣れ始めた。初めの頃はそれこそ晴陽に毎日のように電話をしていた。というのも自炊しようと考えたからで、そもそも住所不定のような生活を送っていた黒守に家事的な知識は全く皆無であった為、日に何度も電話しては教えを乞い、やってみては失敗してまた電話をし、それでも晴陽は喜んで色々と教えてくれたが十日も経つ頃にはお互いが黒守に自炊は無理と共通の答えを出した。何とか朝食だけは食べられるレベルに達し晴陽と笑いあったのも記憶に新しい。

 黒守がそんな苦労に身を任せている間に、クラスメートはある程度のグループに固まり、知らぬ間に弾き出されるような形で落ち着いていた。もっとも、入学式後の自己紹介で名前と年を言った時点で遠巻きにされるだろう予測はついていた。

 神薙の家や神薙組組事務所のある地域とは離れているものの、この辺りも歓楽街とヤクザの多い土地柄であったし、この学校事態も俗に言う不良が多い。必然的に神薙組と言う名に聞き覚えのある人間も多かった。

 更に黒守自身の情報がないことも拍車をかけた。年齢が自分達よりも上であること、出身中学が不明なこと、そして決して真面目そうに見えないその容姿、態度からどの程度の力量なのか、判断できる物が全くと言っていいほどないこと。中には先輩に情報を求めた者もいたが、結局何も分からずじまいだった。

 それもその筈である。中学生の頃の黒守は神薙ではなかったし、まして本名を名乗っていたわけでもない。そして、今の黒守と当時の黒守を繋げるものもなかった。一人でいることに特別苦痛を感じるわけでもなかったので、黒守はまるで傍観者のようにその状況を受け入れていた。

 朝に起きて学校に通い、半数くらいが教室にいれば上出来な状態のクラスで半分ほどは居眠りして、それでも真面目に授業を受け、夕方にはマンションに帰り、心配性な晴陽にメールか電話をしてから夕飯を食べに出る。毎日毎日その繰り返し。不思議とその穏やかな繰り返しに飽きは来なかった。

 特別刺激があるわけでもないその日々はことが起こる前触れなのか、それとも延々と続くのか。しかし確実にクラスの、いや学年の雰囲気は剣呑としてきていた。黒守はその事に気付かない振りをしていたが、ひしひしと身に染みていた。



 ゴールデンウィークも間近に迫り、入学後始めてのまとまった休みに浮き足立つ頃、黒守はクラスの不穏な空気に食されたかのように、

「なあ」

と、やはり同じように入学後遠巻きにされていた前の席に声をかけてみた。

「何?」

 面倒臭そうに、それでも黒守に向き直り律儀に返事をしてくる彼に好感を持ちながら

「なんかあんの?」

と、最近感じていた妙な空気のことを問う。

「なんか? ああ、そろそろ一年のトップは誰かって争いが起きる頃かな。例年に比べたら遅い方だと思うよ」

「へー」

「関係ないって感じ?」

「……関係ないやろ、興味もないし」

「でも、巻き込まれるよ、きっと」

「は?」

「レン、って誰も知らんから」

 一瞬、ほんの一瞬だが、お互いを取り巻く空気が変わり、しかしすぐにお互いがその空気を引っ込める。

「お前、誰?」

 黒守は至極不機嫌な顔のまま警戒するように目を細めた。

「桐堂成久。 自己紹介したのになぁ」

 ニヤリと笑ってまるでぼやくように愚痴も付け足す彼を、黒守はまるで記憶になかった。警戒されたままだと気付いた成久は付け足すように

「二年前に舞姫鬼神の幹部だった、て言えば検討くらいつくんじゃね? 面識はないけど俺は写真見て知ってるし、舞姫は去年引いたけど初代とは未だに付き合いある」

と、あっさり手の内をばらした。

「……聞いたことはある。 舞姫にはえげつない情報屋がいると。 確か、二つ下」

 それがお前かと言うように、黒守は成久を見た。



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