最近、本当に最近になってからの話なのだが、名前の机の中にラブレターなるものが入り込んでいた。

宛名はあるが差出人は書いてないその手紙に名前は悩んでいた。

言っておくが名前は今までラブレターなんて貰ったことはない。
生まれて初めて貰ったラブレターが差出人のない手紙だったのだ。

「さっきから溜息が煩いぞ?何か悩みでもあんのんか?」

「あっ、一氏くん…」

ちょうど名前の後ろの席に座る一氏が溜息ばかりつくを煩いと言いながらも心配してくれているようだった。
名前は後ろを向いて淡い黄色の封筒のラブレターを一氏に見せた。

「この手紙なんだけど差出人が解らないのよね」

「手紙?」

一応、相手のプライバシーを考慮して手紙の内容までは明かさなかったし、あえてラブレターとも言わなかった。

「手紙、なぁ…」

「うん」

「気にすることやないんとちゃうか?」

「えっ?」

ぽつりと呟いた一氏に名前は目を剥いた。
これがただの手紙であるのならば特別気にすることもなかっただろうが、ラブレターなのだから相手の気持ちに応える必要があるので、無視するわけにはいかない。

「否、それはちょっと…」

「なんやねん、そのラブレターに差出人がないっちゅーことは“自分はお前のこと見とるだけで充分やから気にせんといてくれ”ってことやろうが!」

「見てるだけだったらそんなこと普通書かなくない?」

「うっ…!」

名前のズバリとした的を得た発言に何故か一氏が怯んだように見えたのは、きっと名前の気の所為なのかもしれない。

「私にはこの手紙を無下には出来ないよ…」

前に向き直った名前は封筒の中にある手紙を取り出して、もう一度見直した。

そこには「ずっと貴女を見ています、僕はそれだけで充分です」と…他人から見たら少しストーカーのように思われる内容だったが、名前にはそれが少しだけ悲しくて、何故そんな報われなくてもいいなんて言うのか気になっていた。

そして最初の手紙であったそれと一緒に置いてあった箱の中に入っていた造花のブローチの箱を開けた。

「あっ、ねぇ一氏くん?」

「なんや?」

何の花かは知らないが、布で出来たその綺麗なブローチを名前は一氏に見せた。

「この花、なんだと思う?」

黄色の花弁が美しく、花屋では滅多に見かけない花なので珍しい花なんだと思っている名前は首を傾げていた。

「そ、そんなん男の俺に聞くなや!死なすど?!」

「あっ、ゴメン…そうだよね…変なこと聞いてゴメン…自分で調べるよ…」

「う…あー!」

心なしか少しだけ上擦った声の一氏は勢いよく立ち上がった。
そして踵を返して名前に背中を向けた一氏が小さな声で呟く。

「……オドントグロッサム…意味は“特別の存在”や…」

「えっ?」

周りが煩いものあったが、一氏の声があまりに小さくて上手く聞き取れなかった名前は耳を澄ませて傾けると、一氏はまるでやけっぱちのように言った。

「オドントグロッサムや!意味は“特別の存在”っちゅーねん!一回で聞き取れや!」

そう叫ぶように言った一氏は教室を飛び出した。
一時的に総勢となった教室に取り残された名前は目を丸くして、力無く机に突っ伏した。

「オドントグロッサムっていうんだ…」

その時名前は「一氏くんは物知りだなー」なんて感嘆していたが、今更になってふと何かが頭の中で引っ掛かった。

「あれ?そういえば……もしかして!」

ハッと気がついた名前は立ち上がってラブレターと箱を手にして一氏を追い掛けるようにして教室を飛び出した。

「ちょっ、ごめんなさい!通して!」

行き交う人々とぶつかりそうになりながら、時には人の群れの間を割ってまでして名前は屋上へ繋がる階段を駆け登る。

行き先なんて解らないが、きっと一氏は屋上に居る気がした名前は扉を開けた。

「一氏くんっ!」

「な、なんっ…?!」

案の定、屋上に居た一氏の顔は赤くなっていた。
名前は息を整えながらゆっくりと一氏に近づいて、手紙とブローチの入った箱を突き付けた。

「これ、一氏くんがくれたんだよね?」

さっき名前が頭の片隅に引っ掛かったことは一氏の発言を思い返したからだった。

「な、なんやねんいきなり!そんなん俺がお前にすると思てんのか?!俺がすんのんは小春にだけや!」

「だったら何でこの手紙がラブレターだって知ってたの?」

「うっ…、それは…その場の雰囲気っちゅーか…」

「私、一言もこの手紙がラブレターなんて言ってないし、内容も一切話してないよ?なのに一氏くんはそれを知ってた、変だよね?」

「う…あ…、」

「一氏くんだよね?これをくれたの?」

「……」

あくまでも自分ではないと言い張っていたはずの一氏は力無くしてその場に座り込んだ。
名前はそんな一氏に近づいて、視線を合わせるようにして冷たいコンクリートに膝をついた。

「なんやねん…俺やったら悪いんか?」

バンダナをずらして顔を隠そうとする一氏に名前は頭振った。

「ううん、すっごく嬉しい、ありがとう」




机の中のラブレター



「でも本当に見てるだけでいいの?」

「いいわけあるかいっ!」

「じゃあどうする?」

「――…ッ、」

「私は一氏くんが好きだよ?」

「お、」

「うん?」

「俺と付き合え!」

「うん!」

「浮気したら死なすど?!」



〈終〉



はっこ様へ、相互記念に捧げる一氏夢です

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