光→謙也
部活も半ばにさしかかった時、謙也さんが体調不良を訴えた。
「白石、ちょお、俺具合悪いねん。少し見学させてもらえへん?」
謙也さんにしては珍しい。
白石部長も首をかしげた。
「さっきまで普通にやってたやん?」
「ちょいと、寝不足みたいや…」
「寝不足?勉強か?」
「いや、ちゃう。消しゴム整理してたら寝る時間遅くなってもうて」
相手は白石部長なのに、真面目な顔して謙也さんが言うから
横で聞いてた俺は笑いをこらえるので精一杯やった。
それを見ていたユウジ先輩には馬鹿にされるし。
「消しゴム・・ねえ。そないな理由通用すると思うてんのか、自分」
「何や、本当のこと言ったまでやで」
白石部長もとうとうあきれてしまったらしく
溜息をついて言った。
「ほな、今日は倒れられても困るさかい、見学してもええで。ただ、今度30周くらいしてもらうねん。それでええよな?」
謙也さんは少々不満気だったが、睡魔には勝てないらしく渋々頷いた。
「なら、謙也以外は練習再開するで」
白石部長の声によって部活は再開される。
謙也さんはグラウンドの側のベンチに腰かけていた。
「謙也も馬鹿正直たいね、もっと何か誤魔化せばよか」
千歳先輩が俺の横で笑って言った。
それは、俺も同感。
謙也さんって何であないにアホなんだろ。
天然やし。先輩らしくないわ。
んで…ホンマに…
しばらくして空が薄暗くなり部活終了時刻が近づいた頃、白石部長に呼ばれた。
「財前、多分謙也寝とるから、起こしてきてやって。あと、鍵当番やて伝えておいて」
俺はすぐ謙也さんのところへ向かった。
案の定、ベンチに腰掛けたまま寝ていた。
俺は隣に座って、耳元で名前を呼んでみた。
「謙也さん、謙也さん。」
「俺はスピードスター、…さかい、30周なんて全然ー・・」
寝言を言うてる。
どんな夢を見ているんかな。
「謙也さん、起きてください」
「あ、ー… ざい、ぜん?」
「そうっすわ、もう部活終わったんすけど、ちゅうか、鍵とうば、」
俺が言うか言わないかの時にいきなり俺の肩にもたれかかってまた眠りよった。
「ざいぜん、もうちょい、寝かして、や」
「どんだけ眠たいんすか、」
俺はそんな謙也さんをどけることも起こすこともしなかった。
ただ、頭を撫でて、
「ホンマ、好きっすわ。」
そう小さく呟いたのだった。
( いつか、伝わればいいな )
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