旅行 *






「謙也さん、もうすぐ夏休みやないですか。旅行行きません?」

遠くじゃなくても隣町でもいいんで1泊。
…と、俺の部屋に居た後輩、いや正確には恋人でもある財前光がそう言う。


俺が中学校3年生の時に部活の後輩であった財前に告白された。

「好きなんすわ、付き合ってください」

いつもは俺のこと散々見下してる財前だが、
この時は俺の目を見て真剣に言ってくれた。
返事は1週間も悩んだが、
自分が、財前に惹かれていることも
薄々気づいていたので、OKした。

しかし、男同士。
堂々と恋人らしいことをすることもできず、
(当時一緒の部活だった奴らは多分気付いていたが)

俺も先へ進むのは本当に良いのか、など不安もたくさんあった。
一種の思春期特有の迷い、じゃないのだろうかと。

そのせいか、

初めて手を繋いだのは付き合って2カ月目。
初めてキスしたのは3ヶ月目。

そういう雰囲気になるのは慣れてなかった俺は
いつも避けてきていた。

「謙也さん?」

でも、旅行。2人で旅行。
そういう雰囲気になることは間違いないだろう。
キス以上のことをするかもしれへん。

「あー…ぉん、うーん」

「謙也さん、心配せんでもええ。ただ謙也さん受験で忙しかったし、俺も部長引き継ぎとかでなかなか二人でどこか行く機会もなかったやろ?」


財前は俺の気持ちを察してくれたらしく、
そう優しい言葉をかけてくれた。

「せやなー…。なら行こか。でも財前、受験は大丈夫なん?」

「余裕っすわ。謙也さんみたいに受験前に焦ることなんてないんで」


きっぱりと言いやがった。
この後輩は優しいのか意地が悪いのか良く分からん。


「なら、場所と日にち決めましょや。親の承諾はもう貰ったんで」

「行く気満々やん」

「当然っすわ」

あれは駄目、これは駄目と話し合いの末、
電車で行ける距離の旅館に宿泊することになった。
近いとそんなに荷物もいらないし、
その付近は観光名所ともされており様々な店がある。

親には

「財前とテニスの大会見に行く。夜までかかるさかい、泊まりになるねん」

といったらあっさりと頷いてもらえた。
ただの後輩、と思われているから当然なのだが。


当日、近場の駅で待ち合わせ。
俺が付くと財前が既にいた。

「財前待ったかー…?」

「いえ、ちょい前に来ただけっす」

「そか、まずは電車に乗るんやろ?でどないすんの?」

「どっか行きたい場所とかあります?」

「んー…」

財前に地図を渡され俺は考える。

「ほな、色々店回りたいねん」

「ええですよ、なら行きましょか」

と財前が俺の一歩手前を歩く。
普通に、異性の恋人ならば手を繋ぐこともできただろうに。

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