「名無しさんさん、来てくれたんすか」

私はテニス部のマネージャーだった。
蔵ノ介や謙也の1個上だからもう、
四天宝寺を卒業して、今は高校生だけど。

今日は高校が休みだったため、母校に行ってみることにした。
テニス部は相変わらず暑い中ランニングをしたりしていた。

「暑いなか頑張ってるね」

「名無しさんさん!俺めっちゃ足速くなったんやで!」

「…謙也!背伸びたね」

蔵ノ介は2年の頃から部長をやっていたから、
相変わらず大人っぽくなっていた。

謙也は、前よりチャラチャラしてるけど、
人懐っこさは変わってなかった。


思い出す、あの卒業式の日。


「俺は、泣いてへん。絶対、名無しさんさんと同じ高校に行くんやから」

目を赤くさせながら、そう言ってたあの日。
冗談でも、そう言ってくれるなんて、
良い後輩を持ったな、と思っていた。

「名無しさんさん、俺らこれから基礎練なんで、そこの日陰入ってて下さい」

蔵ノ介に、案内され日陰に行く。
やっぱり、気の利く人だなと思った。

練習をしている姿を見ると、色々思い出すことがあった。
特に、人懐っこい謙也と接する機会が多かったから、
謙也のことばかり思い出す。

部活の皆で流しそうめんをしたことや、海に行って花火をしたこと。

そして、謙也に告白されたこと。

「名無しさんさん、付き合うて」

でも、私は高校は進学校に通うつもりだったし、
恋愛をしている余裕なんてなかった。

それに謙也は年下。何故か自分のプライドが許さなかった。


「ごめんね、好きな人がいるの」

「でも、俺はずっと、名無しさんさんのこと好きやと思うから」

あの時も、涙は見せず、ニカッと元気よく笑ってた。
それから私は部活を引退して、会うことは少なくなったけれど、
廊下で会うたびに挨拶や話をしたりしたこともあった。

フッた後で、だんだんと謙也に惹かれていた自分もいた。


懐かしい思い出に浸りながら、ふう、と溜息をつくと
コロコロとボールが転がってくるのが見えた。

それを追いかけるのは金髪の、謙也だった。


「はい」

拾ってそれを渡す。

「おおきに!」

謙也はやっぱり笑顔だった。

「謙也、相変わらずね」

「え?何が?」

「謙也の笑顔はいつ見ても元気出る」

フッと笑うと謙也が近づいてくる。

「名無しさんさん」

「…え?」

ギュッと抱きしめられて謙也が耳元で何かを言う。

「…俺、絶対一緒の高校に行くから」

「…ッ」

「やから…、年下とか関係なしに、俺んこと見てくれへん、かなあ」

「謙也…ッ」

「名無しさんさん…、好きなんや、あの時から、ずっと」

謙也が切なそうな表情で見つめてくる。
私は、何故だか、謙也をふりほどけなかった。
きつく抱きしめられているわけじゃない。

でも、ふりほどけない。
それは、きっと、私がもう、謙也に惹かれてるから。


「年下でも…ちゃんと、名無しさんさんのこと、守るから…」


“俺と、付き合うて”


耳元で囁かれた言葉。
あの時と、同じ言葉。

ふと、見上げると、謙也と目が合って。
でも、あの時とは違った、一回り、成長したような、謙也。
もう、子供っぽさなんて感じなかった。


「…ちゃんと、守ってね」

「…ッホンマに!?めっちゃ、めっちゃ、嬉しい」


あぁ、喜ぶ姿はあの時のまま、子供っぽさが残ってるね。

「好きに、なったかも、謙也のこと」


なんて、嘘。
本当はずっと前から惹かれてたよ。

「…俺はずっと、名無しさんさんのこと、好きやったんやで!」

その言葉と同時に、謙也と、唇が重なった。

「これからも、よろしくね」



( ずっと、守るから )





白石 「部活中やで」

謙也 「あ!!!」

財前 「大胆っすわ」







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