「そんなことで泣いちゃだめ」
俺は小さい頃よく泣いていた。
「…名無しさん、」
隣の家の1歳年上の名無しさんは
そんな俺にいつも優しく接してくれた。
「光、アンタはめっちゃかっこええし自信もってええねん」
「でも、泣き虫やって、しかも、大人ぶってる、て」
「それはぜーんぶ、光が羨ましいねん、だから、」
――光は光のままでええねん。私は光のこと好きやで。
今でもあの言葉は覚えている。
幼い頃の「好き」なんてきっと、
恋愛感情なんかじゃないと思うけれど。
「おはよう、光」
「…名無しさん。何?」
「かわいくな!本当かわいくな!」
「朝からウザいわ」
「昔は可愛かったのに!」
――俺は、こういう風に素直になれるキャラやないけど
名無しさんに初めて、「恋する」っていうことを
教えてもらったんやで。
その気持ちは今でも変わらへん。
好きなんや、名無しさん。
「…名無しさん、学校一緒に行ってもええけど」
そう言った俺の顔を見た名無しさんは
やっぱり昔のまま優しい顔をしていた。
( 初恋を教えてくれた君に、いつか、好きと伝えたい。 )