「名無しさん。好きや、付き合って」

「私も白石くんのこと好きです、改めてよろしくね」

人生で初めて告白して、
付き合い始めたのが3か月前。

名無しさんはとても女の子らしくてすごくいい匂いがする。
俺はホンマに好きやった。

だけど、付き合ってしばらくして名無しさんは、あまり笑わなくなった。

「体調悪いん?どないしたんや?」

「ううん、大丈夫だよ、」

「何かあったら言ってや?」

「ありがとう」

名無しさんはニコっと笑ったけれど本当の笑顔って感じやなくて。
俺と学校内で居るときはいつも元気がなくて、
だけど、帰りはちゃう。
自分から沢山話してくれるし笑ってくれる。
俺はそんな名無しさんが1番好きやった。

それからまた少し経って、もうすぐ4カ月を
迎えようとしていた時のことだった。


「白石くん、別れてほしい」

「え」

「ごめんなさい、自分勝手で」

「どないして?」

「他に好きな人が出来て」

名無しさんは、終始俯いたまま静かにそう告げた。
他に好きな人が出来たなら諦めるしかないねん。

俺は、好きやけど。
好きやから、迷惑かけたくないねん。


「さよか、今までありがとう」


意外とあっさりした別れ方だった。
別れた後は名無しさんと話すことはなかった。

けれど

名無しさんは、またあの頃のように、笑っているなあ、と思った。
その笑顔を見るたびに俺の中で気持ちが揺らぐ。

――…やっぱり、好きやねん。戻りたい。


ある日、俺は名無しさんを探した。

「多分、中庭やで」

中庭に向かうと名無しさんと何人かの女子がいた。
俺は物陰に隠れる。

「まだ、何か用あるの…?」

「いや、無いけど、ホンマに白石くんと別れたんだよね」

「別れた…から、白石くんには何もしない、んだよね?」

「うん、しないよ。もうアンタにも何もしない」

「……そっか、よかった」


――どういうことや?

「じゃあうちらが気兼ねなく白石くんにいけるね」

「頑張って好きになってもらうで」

そう言って女子たちは帰っていく。

名無しさんは静かにその場にしゃがんだ。

「嫌や…、まだ白石くんのこと好きなのに」


その時俺は初めて気付いた。
俺と付き合ったせいで名無しさんは女子たちに脅されていたことに。
好きな人が出来た、って言って俺を振ったのは嘘で、
その時だけでも俺が諦めてくれるように仕向けたんだって。


「結局私は自分が大事だった」


そう1人呟く名無しさんを抱き締めに行くことはできなかった。
俺が行くことで、また名無しさんはひどい目に遭うのだろうか。
悲しい思いはさせたくないねん。


壊れそうなほどに好きなのに、
お互い想っているのに、


幸せになれないなんて。






第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -