「お姉さーん、なぁにしてんのー?」
軽快な声に振り向けば、髪が左右にピョコンと跳ねた男性―丹波がいた。
―あらら、ちょっと警戒されてるかな。
名前は少し笑う。
―まぁ、昼間っからフード被ってクラブハウスうろうろしてたらそうなるか。
「別に何もしてないよ?」
「嘘だぁーっ、だって俺、松原コーチと話してるとこみたもん」
「ははっ、盗み見はよくないよ、丹波聡クン?」
「何で名前知ってんのー?
あ、もしかして俺の追っかけだったりして」
「そいつはどうだろうねぇ」
名前はETUの選手の名前を全部覚えていた。
ベテランから若手まで、スタメンから控えまで。
全員、顔と名前が一致する。
「えぇー、つまんねー」
「僕はETU全体のファンだからね」
「ねーぇお姉さん、ここ関係者以外立ち入り禁止だよ?
見た感じ記者とかでもなさそうだし」
「うーん、もうすぐ関係者になるってトコかな」
「お姉さん面白いね」
「そいつはどうも」
あたり障りない話を続けていたはずが、いつの間にか丹波に詰め寄られていた。
「ありゃ、これは俗にいうピンチってやつかな?」
「もう遅いよ」
気がつけば名前は丹波に抱きつかれていた。
「俺、お姉さんの事気に入っちゃった」
出会い頭に 抱きつくってありですか?