「私の心臓が止まるときは」
唐突に彼女が呟いた言葉に俺の心臓が痛く、なった。
「きっと、この世界を満喫した後、なんだろうな」
彼女が空に手を伸ばす。俺は彼女の空いた手を握る。
「ねぇ、宏はどう思う?」
「そうだな、俺はお前を目一杯愛した後、だな」
「意外、そんなクサイこと言うんだ」
クスクス、彼女は笑う。
もう日も暮れた公園には俺達以外誰一人いなかった。春が近づく公園には桜が咲いていた。
「愛って曖昧だよね」
思ってるだけでは伝わらないじゃない。
彼女は俺の手を握り返す。
「何回、宏に愛してるって言っても足りないや」
俺の手を握る力が強くなる。
「意外だな、お前がそんなこと言うなんて」
「なんかね、言いたい気分なの」
えへへ、彼女が笑う。
「心臓の音がね、宏といると速くなるんだ」
脈打つ音が聞こえる。
「宏も速く、なる?」
「俺はお前と一緒にいるといつも速くなるよ」
「じゃあ、一緒、だ」
彼女がふいに、消えそうに見えた。
「宏?」
気が付いたら、手を強く握っていたようで、慌てて力を緩めた。
「すまん、大丈夫か」
「うん、全然」
でも、びっくりした、かな。
彼女はフフと笑う。
「消えそう、だった」
俺が呟けば、彼女は立ち上がって桜の下に行く。
「私、生まれ変わったら桜になりたいなぁ」
木の幹に触れながら、彼女は呟く。
「桜は、私たちみたいに曖昧じゃないし」
花は儚いけど、一年たてばまた咲くし。
俺の腕を引き、彼女は笑う。
「ここで待ってたら、宏が必ず迎えにきてくれるじゃない」
優しい目をした彼女。
「俺は、お前がどこにいても迎えに行くさ」
「そうなの?」
じゃあ、桜になる必要はないかな。
そうだな、お前は俺の傍で笑ってくれていたらいい。
繋がれた左手が、やけに温かかった。
儚くも揺れる曖昧な存在でも、確かにここにある存在。
ドリさんって動揺すんの?って原点からこの話にたどりつきました。
しかしなかなか書いてて恥ずかしかったなんて……!
ドリさんってもっと大人っぽいよね、うちのドリさんは大人っぽさが足りないと思います。すみません。包容力が出ない……!
生まれ変わったら桜になりたいのは私です。
ドリさんに迎えに来てー(笑)
素敵な企画ありがとうございました!
とても楽しく書かせていただきました。
シャー消し 管理人 風鈴Verde01様に提出させていただきました。