突然の事に頭がついていかない。

―な、んで。

「ど、して、」
「お前を待ってた」

堺さんの吐く息が白くなる。

コートに手を突っ込んだ堺さんは様になっている。

そんなどうでもよいことに目がつくぐらいに、

名前は見惚れ、混乱していた。

「あー………今日は名字が早く終わるって聞いて、さ。一緒に飯でもどうかなって………名字?」
何の応答もない名前を覗きこむようにしてみる。

すると小さく聞こえた声。
「…きで………さ…」
「……え?」


「好きです、堺さん」


そういうと、名前はポロポロと涙をこぼした。


突然の事に頭がついていかない堺。

自分が泣かせてしまったのだろうかと焦る。

女の涙―……ましてや心底惚れている名前の涙など見たくはない。

「堺さ、ん、迷惑、ですけど、諦め、られなくて、」
ポロポロ涙をこぼす名前の姿に、堺は男の加護欲を感じた。


「名字、勘違いしてないか?」

堺は名前の言葉を思い返した。


「だって、堺さ、女の子に、」

……………あれか。
漸く思い当たった堺は名前の頭を撫で、ゆっくりと抱き締めた。

「?!!??!!!!?」名前は焦り、堺の腕の中から脱出しようと試みる。

だが所詮、男にはかなわず。


「彼女にしたい奴ってぇのは………お前だよ、名字」

「………え?」

「あー、くそ、計画してた奴がパーになったな」

ガシガシ、と照れ隠しなのか頭をかく堺。

「まぁ、兎に角、さ、」


付き合う、か。


微笑でだけど名前の目を見て。

その名前の目には、
夕焼けの色の目をした堺が映っていた。






Evening glow of betrayal(裏切りの夕焼け)



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