不純物混じりの愛
※仗助相手の何か
『チョコレートに血を混ぜるって恋愛成就法、ずいぶん前にあったよね』
「いきなり何言い出してんだオメーは」
帰りのHRが終わった直後、東方仗助の隣の席に座っていた名前が唐突に話を切り出した。までは良いのだが、内容のおぞましさに面食らった仗助は椅子に腰かけたまま一歩引いた。
『いやぁ〜〜仗助サンってよく女子にモテますでしょお〜〜〜〜?手作りチョコとかバレンタインに貰ったり、ねェ〜』
猫撫で声と、下目蓋が持ち上がってにやついた目に更に悪寒を感じた“モテる男”はついでに、ある種の虫の知らせのようなものもその場の雰囲気から察することができた。
「今は夏ッスよぉ〜 そーゆー話はちこっと時期外れなんじゃあねーの?」
『それがね、今からあなたが目撃するものと非常ぉ──に関係があることなのよォ』
名前の手には可愛らしくラッピングされた小箱。具体的に言えば100円ショップで手に入るような安っぽいぎらつきの赤く薄い箱に、女の子らしさを過剰に演出する巻きリボンの白がアクセント。
嫌な予感しかしない。
『心を込めて作ったのよおぉぉ〜〜、受け取って……くれるわよネェ───』
「いや、貰えるモンなら貰いてェーのは山々ッスけどちょっと、そーいうのは」
『あらそう、じゃあ自分で食べるわ』
「えっ」
予想外なことにしつこく迫るような気迫もなく、非常にあっさりとした態度で座り直した彼女は箱の蓋をあけ、いかにも手作り感満載のチョコレートを同時に二つも口のなかに放り込んだ。
『パリッ、ポリ、ポリ』
「えっ?いやァー、ちょちょちょ、ちょっと、大丈ォ〜夫なのそれッ!」
あんな話を持ち出したのだから何かヤバいモノが入っているに違いないと確信したはずの仗助が、逆に!名前の身の安全を心配する立場になろうとは。
『アンタって危機回避能力だけはカジョーなぐらい高いわよね。食べ物にんなフケツなモン混ぜるかってーの!むしろあたしの髪の毛アンタになんて食べさせたくないワ』
からりと快晴満点の笑い声を上げる名前にまんまと騙されたモテ男は、遠回しに「アンタなんか眼中にない」と言われて複雑な気持ちを抱えるのだった。
「ちなみにそれいつのチョコよ」
『去年のバレンタインから冷蔵庫にほっときっぱなしだったやつ』
(食わなくて良かった……)
『ちなみにアンタ当てだった』
「えっ」