それ俺のスタンドです | ナノ
大きな親切、特大迷惑


《早くここを出ろ、まさかあんな気味の悪いものまで持っていく気か》
『……(この短時間にイギーがやられた?別にあのいけ好かないのを心配するほどまだ慈悲はないけど……けどあれ、あの足はどう見ても小型の動物のものだ……敵が近くにいる?氷のスタンドだと!?)』
(背中の花京院をまだ凍っていない壁に押し付けて周囲を探る。マンホールから砂漠地帯特有の蒸されそうなほど暑い日差しが忍び込んで……)

『妙だな』
《?》
『私達が落ちたマンホールのあった路地、かなり入り組んだ場所にあったけれど、かなり幅は広かった』

(なおも鋭く流れる水の先を警戒しながら、自身と壁の間に花京院を挟み守りつつ頭上の出口へと近づく)

『広い道路ってのは、それだけ人や交通機関の行き来が激しいってことだ。多くの人間がそこを通るからこそ周りにも店や居住区が建てられていく』
《……》
『ここに来てから花京院以外の人間を見ていない。日中は建物の中に引っ込んでるとはいっても、自動車ぐらいは通っても良いはずだ』
(自分のスタンドを出し、今だ目を覚まさない仲間を任せてハシゴに足をかけ、昇る。地下と道路の境目すれすれまで顔を近づけ、砂混じりのコンクリート壁にペタリと耳をつける。少なくとも車のような駆動音は聞こえてこない)


《花京院を置いていけ》
『嫌だって何度も言ったよね、それにこいつがここにいるってことは承太郎達も』
(不意に穴の向こう側から影が覆う。誰かがこちらを覗いているのだ)
『ッ!』
「その花京院、あんたの知っている彼じゃあないぜ。だから」
『……(顔はよく見えないし、知らない男の子の声だけど……)』

「あんただけこっちに来てくれ。“蓋は閉じておく”よ……」
『……………… 分かったわ、えっと』




「“硬貨と護符の”、いや!おれの美的感覚からいってこれはダサいな。
 
 《堅実な責任感》と《辛抱強さ》を暗示するカード!
 「ダイヤ」の「ナイト」ッ!
 おれにもスタンドにももう名前はないけれど、自己紹介をさせてもらおう!」

『んなこたァーどーでもいいから抜け出すの手伝って……なんか、どっと疲れる……』
「えっあっゴメン!」





(マンホールを出ると、道路の真ん中ではなく、どこかの屋敷だろう、そこの階段のある部屋に立っていた。高級そうな土壁が無惨にも抉られくり貫かれて、夕日が越美の顔を照らす)

『……────さん』
(名前を呼ぶと、面白いほど少年の動きが止まる)

「どうして知っているんだ?」
『承太郎があんたのことを覚えていたよ。“七人目”、だろう』
「……そうか。ジョジョはな、おれの最期を看取ってくれたんだ」
『へえ』
(越美の返事には、興味も同情も一切混じらなかった。────は情けなく見える垂れ眉をいっそう引き下げて、味気ない笑顔を表した)


「どうしてジョジョを追いかけて来たんだ?」
『承太郎のスタープラチナ……彼の勇姿を一目見たい。そりゃあ置いていかれたのはムカついたけどさ、私がまだ未熟で死ぬ危険性があるからだって分かってる』
(無愛想に自らがここに来た理由を告げ、階段をのぼる少年についていく越美。少年は一度にやついて、目的を思い出したように先導する)

『けれど、それとスタープラチナさんの傍にいたいって気持ちはまた別の理屈!私はただそれだけのために追いかけて来た!なんなら共に闘いたいッ!』
「“小アルカナの一味”は?」
『承太郎達があんな弱いやつらに負けるはずがないだろ』



(彼らは螺旋階段の、最後の一段を踏む足に力を入れた)
「そうかい。……もう一つ、質問いいかな」
「なぜ初対面のおれを信用して、花京院も穴の向こう側においてきたんだ?普通の感性を持つ奴なら、おれを疑うか、もっと悪けりゃ逃げようとするだろう」
(ふと彼女は気づいた。財団からここまでついてきた筈の、あの忌まわしいスタンドが居なくなっていることに)
『(……まあ、さっさと彼らに合流したいし。今更案内役は……)その理由がたぶん、この部屋にある』


(扉の先、屋敷の縁に位置するその部屋は、幾本かの簡単な彫刻が施された柱で支えられていた。夕日がこれでもかと差し込む。)


(棺桶だ。三つある。二つは成人男性が余裕で入れそうな、後一つはその4分の1もない。小型の動物ならぴったりだ、そう考えた)


「目の前に真っ暗闇があった」
『!』
(振り向いても姿はない。視線で風を切れるほど素早く四方を観察するが、越美だけだ)


「穴ぼこだらけの部屋を見たよな?あれをやった犯人に胸骨を蹴り砕かれたこともあった」


「本当にいつやられたのか分からずに、自分のスカスカな腹をじっと眺めるしかなかった」
(気づくと目の前に、白く鈍く夕日を反射する……目の落ち窪んだ奇妙な頭蓋骨があった)

「いいか、ジョジョに会ったらどうにかしてあいつと額を合わせるんだ。キスでも良い。とにかく顔を近づけろ」
『あんた、何を(味方って思ってたのに!完全に油断した!悪い癖が出てしまった!)』
「もうこれしかないんだ」

(ずぶり。越美の頭に、けれど爛々とどす黒い希望の光を称えた白骨死体の一部が埋まっていく)
「ジョジョは死ななくてはならない。けど。おれはただ、生かしたいだけなんだ。“本物”の花京院達が生きているように、何のトラブルもない人生を送って貰うんだ」

(脳裏に焼け焦げた本が再生していくイメージが溢れる。それは胃の辺りから背骨への貫通する痛みや、恐怖を感じる間もない暗闇や、肺に穴の開いたようなひどい息苦しさをもって、タイトルをこう記した)


「《OVER HEAVEN》をこの世から消し去ること、それがおれの覚悟であり幸福だ」
『(だけど、それってもう遅いんじゃあないのかな)』
(二人分の記憶に脳を混ぜられそうになりながら、越美は呻き声をあげた)




───────────────
ごめんなさい、長くなりました

prev next
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -