それ俺のスタンドです | ナノ
犬が西向きゃ


(越美、プレイ・Vがいざ探索へ、背を向けたコンクリートの道路から不快な騒音が響き渡る。どうやら車のブレーキが急だったようだ)
『なんだ?……げっ、SPW財団のワゴン車ッ!もう見つかったのか!ちくしょうッ』
「ま、待ってください!もう秋本様を連れ戻しに来たんじゃあないんです」
『あァ?』
(慌てて運転席のドアを開け叫んだ男は、越美を牢に行く途中で阻止してきた職員ではなかった。)
(なぜか着ているツナギは所々切り裂かれ、不自然なほど砂まみれだ)


『なんだか別の事情みたいだけど……えっと、何かあったんですか?』
「ええ!犠牲者の職員を追ってこの森を探索に入られたジョースター様のお孫様に、数日前「助っ人を連れてきて欲しい」と」
『承太郎が?……ああ。成る程。私が責任をもって同行しますので』
(余所行きの若くぎこちない笑みにすっかり職員はほだされたようで、またこの娘に早く押し付けて帰りたいとばかりにせかせかと後ろのドアを開ける──)

「ワウ、ワウワウ、ワンッ!ガウルルルルッ アギィ〜〜〜〜ッ!」
『うわっぶッ!い、いてェ──────ッ!』
(未知の生命体に飛びかかられる越美ッ!
 逃げようともがくも時既に遅し!バリバリと遠慮なしに出された爪により毟られる前髪ッ!前髪ッ!更に!髪の毛ッ!!
 そしてッ!)

 プウウウゥゥゥゥ〜〜〜〜〜〜ッ
『く、くっさあ───────いぃ〜〜ッ!なんだこのにおいッ!』
(あまりの臭さに錯乱し、がむしゃらに何かを引き剥がそうとする越美。幸い一連の行動に満足したのかいとも簡単に顔から外すことが出来た)



(犬だ。小型、犬種はボストンテリア。不細工な面でニヤリと笑うそのクソ犬に対し、頭に来た越美はとてつもない仏頂面で、)
『やっぱ引き取ってください……あれっ、さっきの職員さんは?』
《既に車に乗り込んで帰ったぞ。……まあ……なんだ、体良く押し付けられたようだが………………》
『全部終わったらあの人見つけて文句言ってやる!』
《………しかし、なぜこのタイミングで………………?》
『どうした、歯切れ悪いな。どうせ私を襲撃した時についでに頼んだんだろ?承太郎の声を借りて』
《………………》
『無言は肯定の意と判断する』

(無駄話をしても始まらない。プレイ・Vが一言も発さなくなったのと同時に、越美の腕の中で犬が暴れだした)

『ワン公!暴れないでよォーっ こんな不気味な場所で』
「アギギ、イギ」
『なんだっけアンタ名前……そうそう“イギー”!こら、迷ったら危ないんだから言うこと聞きなって!』
「ワンッ!ワフ!?……イギッ!」
(言うも空しく暴れるイギー。逃がさんと必死に抑え付けているからか、彼女らの周囲にはざわざわと次第に広範囲に砂ぼこりが舞う)
(と、なにかを感知したようにイギーは動きを止める)

「クン、クン、」
『何かの匂いを辿ってるみたいだ』
《下ろしてやれ》
「アギ」

(そっと下ろしてやると、イギーは短い尾をピコピコ震わせ周囲を嗅ぎ回る。ひとしきり唸った後、越美とプレイ・Vを一瞥し歩き出した)

『……着いてこい、と言いたいようだな』
《………ああ》










(猫の眼前に何か丸いものが転がってくる。毛糸玉のように形を整えられた布の塊のようだ。)
(彼は名誉ある番犬、ならぬ番猫だ。ご主人の言いつけはきっちり守らねばならない。今は入り口のアヤシイ人間二人を見張ってなければならない。)
(しかし!唐突に彼のあと三人の片割れのうちの一匹が、敵の組織に甘やかされてゴロニャンと尻尾を垂らしている光景が脳裏に浮かび上がる!)

「……」

(彼ら猫の四兄弟は、同じ母親から生まれ、同じミルクを飲み、同じ日に捨てられ、同じ日に拾われた)
(考えも同じ!思考能力は通常の四倍!視界も他の四人で切り替え可能!行動だっていつでも把握できる、まさに生ける監視カメラッ!)

「………ハア、ハア」

(だからこそ!任務のプレッシャーから一切逃れて遊び呆ける末の弟だってこの目で捉えられる!貴様!敵の手に堕ちて媚を売るとはッ!)
(猫は本来自由な生き物。誰かに縛られるなんてまっぴらゴメンだニャ。兄さん達もツラいお仕事を止めて一緒に遊ぼう)
(ふざけるな!)
(ご主人の赤ちゃんを守るための監視役なんだぞ!)

「………ニャ、」

(それならなおさら関係ない。自分は監視じゃあなくて裏切り者を殺すための密偵、バレちゃったからもうお仕事は止めるニャ)
(頭の中で二人の兄が喚いている。三男の自分とバカな弟よりもインテリ猫のアイツらは、一度喧嘩が始まるとお構いなしに責め立ててくる。全く猫らしくない。)

「おい、なんだかあの猫ぐったりしていないか?ポルナレフ、お前一体何を投げたんだ?」
「……しまった、洗ってない方のパンツだった」
「お前は相変わらずだな。臭いからきちんと毎日洗えと」「あーはいはい分かった!分かりましたッ!全くうるせえなアブドゥル!」「なんだと!?」

(なんだかあっちの方が楽しそうだ。特にうるさい方なんか、からかってやったらどんなに楽しいだろうか。もう一日中おんなじところに座ってるだけのツラい仕事は嫌だ!)

「ニャアア〜〜〜ンッ!」
「ポルナレフ!監視猫がこっちに向かってきたぞ!」
「しまったッ!間に合わないィ────っ」

 モフッ!

「ゴロニャァ〜〜ン」
「? ? な、なんだ?目の前が真っ暗、うえっ!ペッ、け、毛が口の中にッ!」
「……どうやら、お前は懐かれたようだな。理由はよう分からんが」
「は、離れろッ!爪を立てるな!いてえッ!このクソ猫ッ!」
「ニャフ」




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