君と未来を歩む | ナノ




どうせこれからも



『雨ってのはなんでこうも気が滅入るんだろーナァ』
小学生用の黄色い傘をさし、一向に晴れない空を見上げる。目に雨水が時々入ってくるが、あまり気にしない。
「知らないよ。しかしいくら天候は変えられないといっても、ちょっとは空気を読んでくれないものかね」
『仕方ないだろ』
東京から新幹線で数時間のところにある古都。六年生の修学旅行はここ、奈良とそこに隣接する京都だ。


修学旅行と言っても、大変なのは行く前の下調べやグループ発表だけであって来てしまえばなんてこと無い。先生の決めたルートが少し長めの距離なのと、雨と人通りの多さで地面がどろどろなのが気になるけれど、そこまで神経質にならなくても良いだろう。







なんて思ってたのが間違いだったのかもしれない。

「おいィおせーぞ一組ィッ!」
「女子!!写真はスタンプん所で撮れば良いから走れッ!時間足りねえ!」
「ユウコちゃん具合悪いのに走らせるとかサイテー!おぶってやったらどうなのよ!」
「んなもん走ってりゃ何とかなんだろーがッ!!」

元はと言えば高橋先生が「一位になったヤツからランクの高い部屋選べるぞー」なんてたきつけなけりゃこんなことにはならなかったはずなのに!
景品があることで闘争心に火のついた一部の班長が、ろくに見学もせず目的地に向かって走り出したのだった。


もちろんそれはうちの班長も例外ではなく。


『は、なあ、あきお!地面やべーって!雨!』
「るせェな滑ったって死にゃあしねーだろ!走れッ!」

「っフゥー、っフゥー、」
鼻息荒く傘をこれでもかと揺らしながら、心配なほどに真っ赤な顔の露伴が付いてくる。
『ろはん、ダイジョブお前?もう20分ぐらい走ってっけど』
「ぼ、僕、もーダメだ。歩く……」
赤を通り越して青ざめ、それさえも過ぎて白くなりつつある親友にスピードを少しずつ緩めるように言い、首に下げてあるスタンプラリー用の厚紙を引きちぎるようにして取り上げる。更に速度を上げて班長の耳横まで近づき、二枚のカードを差し出す。

『班長、露伴リタイア。これ俺と露伴の分のスタンプカード』
「しゃあねえな、時間までには着けよ」
『はいよ』

渡し終えたら減速して、息を整えている最中の露伴の元に戻ってくる。
大分足にがたがきているようだけれど、少し休めば普通に歩けるぐらいにはなるだろう。

「ッハ、どうしてああもガキは競争ってのが好きなんだろうな。やはり本能か」
『おめーもまだまだガキだぜ、そして俺も』
ゆっくり、ゆっくりと調子を緩めていき、呼吸を整えて歩く速さまでに落ち着く。この頃には十分頭に酸素が行き渡ったようで、まだ血の気が少ない顔色ではあるがいつもの悪態をつくぐらいには回復していた。



奈良公園までたどり着くと、おれのクラスのサユちゃん先生が雨ガッパを着て立っていた。二人しかいないのを見て仕方がないというように笑った。ぬれないように一枚ずつしかせんべいを手渡してもらい、うちんとこの班長はとっくの昔にスタンプを奪っていったと言われた。
「不味いな。こんな不味いもの人の食いモンじゃあないぜ」
『何で食ったんだよおめーよぉ』
「知的好奇心というやつだよ」

自分の分を近寄ってきたシカにあげて、先を目指す。
少し待てと言われて立ち止まると、何やら背中のリュックから取り出そうとしている。傘を持ってやればすぐにお目当てのものを見つけた露伴は、ジーコジーコと特徴的な音のするそれのダイヤルを回し始める。

『持ってきていいのかよ、それより撮ってると遅れるぜ』
「持ってきちゃあ駄目だなんて書いてなかったろ。それにここまで走ってきたんだ、遅れやしないさ。………よし、次は東大寺だな」
『ほい傘』
開いたままのをぽいと渡せば、ちょっとわたわたと取り落としそうになるのを見て笑う。
するとムッとした露伴はおれの頭に向かって手を振り上げ……少し間をおいて、軽くチョップした。それもおかしくて笑い声が大きくなってしまう。

『別によぉ〜おれァぶん殴られても平気だぜ!甘ちゃんだよなァ』
返事はないけれど、フンと鼻をならしそっぽを向いた親友は優しさが分かりづらい。おれが読み取る努力をしなければ、いつかは自分達はすれ違ったまま直らない、なんてこともあるだろう。


『いくぞ露伴。せめて目的地までは小走りでいこうぜ』
組まれた腕を引っ張り、向かう方へぐいと引っ張る。「おい、転ぶなよ」と迷惑そうに小言を言う彼は、聞けばどうやらこれからもずっとおれのそばにいる、らしい。二人でもう一度親友の誓いをやり直して、そう宣言された。


どうせこれからも一緒ならば、そのねちっこい心意気に答えてやるのも案外悪くないかもしれない。

今度は間違えないようにしなければ。




 
                              小学生編 終わり


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