君と未来を歩む | ナノ




運動会



そう言えばもうすぐだな、という露伴の言葉でしゅくだいをする手が止まった。

『何が?』
「運動会が」
確かにカレンダーを見るとそろそろ体育のじゅぎょうが運動会れん習になる。
『気が早すぎるんじゃあないのか?まだ9月入ったばっかだぜ』
「早いぐらいで丁度良いんだよ。特に今年からはな」
よく分からなくて首をかしげるばかりのおれに、そいつはため息をついてまゆをよせた変な顔をした。これあきれてんな。何で?

「………きみは今世紀最大のアホだな!」
『ンだとォ!?』
思わず低いつくえをゆらすほどに大声を出す。のどの奥からいつもの音がもれてとっさにそこを押さえたとき、ようやく露伴のいっている意味が分かる。
露伴は“あれ”で、おれがうっかりやらかすんじゃあないかと思っているらしい。







そこからとんで10月の運動会その日のこと。
「露伴、幸彦くん、頑張れよ!お父さんたちはちゃんと見てるから!」
「岸辺さん!ビデオカメラの設置完了しました!」
「うちの夫がすみません………」
「いえ、うちの人もああなので……」
うん。正直ここから逃げたいけどいつものことだ。いつもこうだ。
となりを見ると露伴が死んだような目をしている。いつものことだ。
『なにもお前んところのお父さんまで呼ばなくても。お仕事だったんだろ?』
「………人の目がある方が良いかと思って」
どうやら運動会の一週間ほど前、うちのお父さんお母さんに“絶対に”来てくれるようたのんだらしい。なるほどたくさんの人の目があればうっかりミスも無いかもしれない。だけどおれはそんなにドジだと思われているんだろうか。


さいしょのしゅもくは50M走。
おれと露伴はクラスがちがう上に走る順も別なので、お互いどちらかが走っている姿を必ず見ることになる。案の定露伴はずっとおれの方を見てきた。露伴のお父さんはそんな様子を写真にとってた。

次は一年生といっしょの玉入れ。
やっぱり露伴はこっちをかんししてくる。……じゃねえ、何してンだあいつ!
『露伴ンン!おれじゃあなくて玉入れに集中しろ!』
「いつきみがうっかりするか分からないだろう!」『しねえよ!』
「お前ら競技に集中しろ!」
この流れの間おれのお父さんはずっとビデオを回していた。

その次もその次のしゅもくも露伴はずっとおれのことをかんししていた。ただしゅもくだけは先生におこられたからかきちんとやっていた。お父さんたちはお母さんたちに「他の人の邪魔にはならないで下さいね」とあきれられていた。




昼ごはんが終わったら後は中学年、高学年の人たちのしゅもくと団たいこうリレーだ。おれと露伴は出ないので団席でおうえんをする係だ。
体育館から団席に向かう間、露伴はぐったりしたようすで歩いていた。きっとおれのかんしにつかれたのだろう。
『けっきょく何もなかったじゃあねえの、なあ露伴』
「……骨折り損だったな」
『それだけおれが成長したってことだぜえ〜、なんせ露伴じきじきのとっくんだし』
「そうか」
ほめ言葉にすなおによろこばないところががまさに露伴だ。

おれと露伴の団はとなり同士で、しゅもくをしている間は団のテントの中ならどこに座っても自由なのでとなりに座っておく。真ん前のほごしゃ席でシャッターを切るお父さんが目に入って思わず笑ってしまった。







さいごの団たいこうリレーの時だった。このしゅもくでは一学年につき二人、つまり一チーム十二人で走るこのリレーは他のどのしゅもくよりも長いきょりを走る。たしか一人200Mだったはずだ。
『がんばれ!まけんな!あっあいつ今バトン落としかけてなかったか!?』
「うるっせェなあ〜きみは!!ただでさえ馬鹿デカイ声なんだから耳元で叫ぶな!」

四年生と五年生が終わってアンカーにバトンがわたる。そのまま走り出したおれの団の団長が、なんと何もないところでつまづいた!
「あっ!」
「うそっ!」

リレーに夢中になっていたおれが気づかないはずはなかった。それどころかおうえんに熱くなりすぎて周りが見えていなかったのも原因だったとおもう。


《ガガガガガガガッ!キュルキュルキュル》

普通の人には聞こえないはずの音がのどからひびき出す。はっと気づいた露伴が何か言っていた気がするけれどおそかった。
『《いいから走れ!そのまま足動かしてアンカーぬかしてブッチギってゴールだコラァーーーーーーーッ!!》』
「え、ううわあああああああ!!」
前のめりになったそこから何かにあやつられるように右足で地面をけりつけて、けっきょく団長は一番乗りでゴールテープを切ったのだった。




「何かいうことは?」
『さいごのさいごで熱くなっちまってごめんなさい』
ふかぶかとしゃざいをする。まさかおうえんだけであんなことになるとは。
けれど団長もよろこんでいたし良いじゃあないかとぶすくれたら、露伴に下げたままの頭をもっと下げられた。体の上と下がくっつきそうだった。

おれを押さえつけたままため息をついた露伴は、めんどくさそうにこう言った。
「きみのその良く分からない能力は見せびらかすようなものじゃあない。あと一度でも使えば誰か気がついてしまうかもな」
そうしたら大変なことになるとそいつは言った。何で露伴がそんなことをか良くわからなかったけれど、今度のくんれんからは真面目にがんばろうと思う。






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