おんなじ力
『ゆうれいが見える?』
三年生の冬休みを使って仗助のみまいに行く車の中で、そんな話を聞いた。
「ええ、入院してからずっと………うわ言のように繰り返すらしいの」
お母さんが朋子さんから聞いた話はこうだ。
おれがリーゼントの兄ちゃんの話を電話で聞いた日にはまだ仗助の体調は良かった。だけど何日もつづいていた高熱にはたえられなくなったらしくて、今はベッドの上ですごしているのだけれど、ある日とつぜん「近くにゆうれいが立っている」とさけんだらしい。
『ほんとにユーレイなんて出ると思うのォ?』
ふしぎな力ならおれも持っているから分かるけど、ゆうれいなんてものはこの世にいないってのはもう子どもの間でもじょうしきだ。多分ねつで頭がおかしくなっているとか、そんなもんだろう。
「さあね。でも長いこと魘されてるみたいだから、あんたが顔出してくれれば仗助君も安心できるんじゃあないかってね」
『お、そう思う?まっかせてくださいよ〜ッ!お兄ちゃんがまいりますぜ!』
おれが会うだけで仗助が元気になるなら、S市びょういんまでの長い道なんてへっちゃらだ。最近露伴も遊んでくれないし、冬休み家にいないことには別に問題はない。持ってきていた冬休みのしゅくだいを広げながら、おれは上手いことならないくちぶえをふいた。
「まったく、お調子者ねえ……やれやれだわ」
まさかだと思った。
《……》
『か、』
まさか、こんな近くに、
『かわいい!(おれとおんなじ力を持ったやつがいるなんて!)』
「なに言ってんのあんた、病室なんだから静かにしなさい」
『いって』
わりと強い力ではたかれた。いたい。
お母さんは朋子さんと話があるらしく、びょうしつの外へ二人で出た。
とりあえずこの部屋の中を見回してみる。白いかべ、ちょっとゴムのすれたあとがついたゆかに、仗助のところ以外空いているベッドが3つ。それぞれのところに小さめの机やたな、大人用のいすにおみまいの花をかざるのかとうめいな花びんまで。
そこまでじっくりと見てまた前に目線をもどせば、さっき目があったかわいい“何か”がいた。
さっきはこいつをおれの力と同じものだと思ったけれど、なぜだろうか。
まあそれはいいとして、こいつの見た目がとてもかわいらしいのだ。
体の色はピンクと白か空色。体のよろい?にはハートがそこかしこにくっついている。女の子がすきそうな感じだ。
もちろんかわいいだけじゃあなくて、かたのハートにトゲが生えていたり、後ろから頭につながるパイプはロボットみたいだ。よく見るとちょっとごついかもな。
《………》
それにしても、ずいぶん大人しいやつだな。と、仗助とそっくりなそいつの目をながめる。しばらくじっと見ていると、はずかしそうに仗助のねているベッドにかくれた。
おもしろくてベッドの下をのぞいて追い打ちをかける。するとこっちに気づいたそいつはぴょんと……ぴょんと………あれコイツちゅうにういてる?
「っ、にいちゃ、」
げほげほとせき込む音にあわててふり返ると、汗びっしょり顔の仗助がひっしに起き上がっていた。
『おい!まだねてなくちゃあだめだぜ!お前今すごくつらいはずだろ!』
「そいつから、はなれて……!」
ベッドに押しこもうとすると、逆におれが引っ張られてバランスをくずす。あわててシーツのはしをつかむとさっきの子のどアップが目の前にあって、思わずうお、と声を出してしまった。
「そいつが……げほっ、ゆうれいのしょうたい、だから………にいちゃ、にげて……!」
げほげほげほ、と大きくせき込んだ仗助は、それでもおれを助けようとしているのかそのピンクの子からおれをはなそうとしてくる。目はときどきぐらりとゆれるけれどずっとその子からはなさず、ぎりりと歯を食いしばってにらみつけている。
はっきり言おう。おれのいとこ、チョーカッコいい。
こんなカッコいい弟にかばわれるのも良いけど、おれはこいつよりも大人なんだ。
仗助の手をとって、おれは前に出る。そんなあわてんなよ、大丈夫だ。
『……なあ、《お前は悪いやつなのか?》』
のどに砂が引っかかるような感覚と、《ガガッ》と何かがこすれる音をはきだしてそのピンク色の子を問いつめる。
こいつはこのしつもんに答えるしかない。
《………?》
しつもんが分かっているのかいないのか、首をかしげるそいつ。けれど、なんとなく今は良いやつでも悪いやつでもないって感じがした。悪いやつだったらこんな苦しめなくてもサクッととりころすだろうし。
それを仗助に伝えると、いっしゅんなっとくいかないような顔をした。が、ふと思い出したみたいに何かに気づいた顔をした。
「ね、ねえにいちゃん。今の、にいちゃんのって………なに?」
やっぱり気づいたか。
『へへ、実はな……おれもオメーのそれとおんなじもん、つまり“すごいパワーを持ってる”んだぜ!』
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