君と未来を歩む | ナノ




急変



それは、ある日おれの家で電話のベルが鳴ったことから始まった。

『仗助が熱を出した、だってェ……?』
《そうなの、急になんの前触れもなく倒れたのよ。病院にいった方がいいのよね……でも、とうさん今いなくて……それで、ねえさんに……》

急にかかってきた電話。お母さんが洗い物で手をはなせないからおれが出たんだけど、朋子さんの[ねえさんいる!?]という勢いに耳がキンとなった。さいしょは泣いていたのかぐずぐずとはな水の音がしていたのをなんとかなだめて(ちょっと力も使った)、言っていることが聞こえるようになったすぐあとのこれだ。

口がかわく気がした。
『待ってて朋子さん。お母さん呼ぶから、仗助をちゃんと見てなよ』
《! 分かったわ》
じゅわきを伸ばしたままお母さんのところへ。仗助が、熱を出したと言わなければ。
『おかあ、さん!』
「何よ、今手が離せないの『仗助が!』……仗助くんがどうしたの?」

『仗助が!じょ、仗助が!』
おれはそこでだめだった。



「貸しなさい!」
素早く手を洗ってタオルでふき(ここまでで1びょう)泣いているおれからじゅわきをうばい取ったお母さんはすごかった。


「仗助くんが何?熱出した?うん……うん………アンタねえ、しっかりしなさい!」
ぴしゃりとしかる声におれも飛びのく。朋子さんの声は聞こえないけど、多分おんなじだ。
「病院に行くのよ、熱は何度か計って扁桃腺とか腫れてないか分かる範囲でチェックね、その間に保険証とか色々準備しなさい。……………よし、後は水で絞ったタオルを額か首に。慌てないでよ、仗助の母親はアンタなんだから」
てきぱきと指示するお母さんはさすがって感じだ。やっぱり仗助のお母さんのお姉さんなんだなと思う。おれのお母さんなんだけども。

「礼なんて良いわよ!早く救急車でも車でもいいから連れてってやりな。うん、じゃあね」
ガチャリとじゅわきを本体に置いて、息を一つ。指示を出していたときの真けんな顔は無く、いやまだ少しまゆの間にしわが残っていたけれど、「ありがとね」とおれの頭に手を置いてほほえむその人は確かに、一人の子の母親だった。









それから数日後、また朋子さんから電話があった。途中で雪にふられて立ちおうじょうしたらしいが、近所のフリョウに助けられてぶじにびょういんについたらしい。
仗助はそのままそこににゅういんした。熱はまだ高いのが心配だけれど、あの子のことだ。きっと元気な顔を見せてくれると信じたいな。

《幸彦くん、ありがとうね。あなた達がいなければあたし、もっと手後れなことしてしまってたかもしれない》
『おれじゃあなくてお母さんにいったらどうすか?おれはガキみてーに泣いてるだけだったしよお』
そう言うとあなたまだ小学生じゃないの、笑い声が返ってきた。小学生はチョッピリ大人なんだぜ、と思ったけどさらに笑われそうだから言わないでおいた。

《姉さんには感謝してもしきれないぐらいよ。でも、まあ……ほら………ね?》
『?』
《そ、そんなことはどうだっていいのよ!いやどうでも良くないけど!》
なんだか照れくさいじゃないのとぶつぶつ言うその人は、おれにもかんしゃしているとはぐらかした。なんだか分かる気がする。
《仗助を見てやれって言ってくれたのはあなたよ。お陰であたし、この子が今頼れるのはあたししか居ないんだからしっかりしなくちゃって………そう思えたのよ》


《ねえ幸彦くん。もしかしたら、あなたには人をその気持ちにさせる何かがあるかもしれないわね》
最後にもう一度ありがとうと言って、朋子さんは電話を切った。おれもじゅわきを置く。人をその気にさせる何か、か。
お母さんのあの行動はかっこうよかったな。男のおれでもシビレるぐらいに。
いつか、あんなふうにこの“声”を使ってみたいかもしれない。




そして後日、おれはもっとショーゲキ的な出来事と出会うのだった。




prevnext




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -