じっちゃんとまご
『仗助、ちょっとそこであそんでな。ジュースもらってくる』
「はあい」
ゴールデンウィークに入って2日目。朝にはしゅくだいを半分までおわらせたし、残りは家でやるとして後は仗助とあそぶだけになった。いつもはもっとのんびりやるタイプだけど、しゅくだいのせいで可愛いいとこにさみしい思いをさせるのは何よりおれがゆるさん。ぜったいにだ。
じぶんの家から持ってきたチョロQやらポッピンであそんだらのどがかわいて、それで今になる。
「おお、幸彦じゃあないか」
『じっちゃん!いつ帰ったんだよ!あ、おじゃましてるぜえ』
「夜遅くにな。いらっしゃい」
子どもべやのドアを開けると、おれ“たち”のおじいちゃん……東方 良平(ヒガシカタ リョウヘイ)さんがいた。入り口の所で大声をはりあげたおれをふしぎに思ったのか仗助が近づいて来て、じっちゃんを見るとパアアと顔をかがやかせた。
「じっちゃん、おかえり!」
「ただいまだ、仗助。しかし……いやはや……大きくなったもんだのう」
じっちゃんがおれと仗助をだきあげてかたに乗せてくれる。もう小学生だってのにかわいいいとことキャアキャアはしゃいでしまった。そのまま台所までのせてってくれると言うものだから、やっぱりじっちゃんはすごいなと思う。
「学校は楽しいかい?」
『おう!新しい友達もいっぱいできたんだぜ!!』
「おれも……にいちゃんとおんなじとこ、いきたいな」
『!!なんってカワイイんでしょ〜ッ!!おれのマイブラザー!!』
じっちゃんの頭ごと仗助にだきつくと、そのせいでじっちゃんの体が大きくゆれる。おっとっと、って少しよろめいたら、何もなかったように前に進む。
もう少しでみんなたおれる所だったのでごめんなさいと言うと、二人とも大丈夫だと答えてくれた。どっちも同じぐらい大好きだと思ったから(もともと大好きだけど)、今度はそっとふたりをだきしめた。
「……うちの孫が仲良しで良かったよ」
ぼそりとじっちゃんがつぶやいたことは、へんにはっきりおぼえている。
そこから昼ごはんまではおれと仗助とじっちゃんの三人であそんで、その後はまた仕事に行ったじっちゃんの代わりにうちのおとうさんが入った。
夕ごはんを食べてお風呂をわかしている間にしゅくだいのミスを見つけたのでついでにもう少し進めて……ここはいらなかったな、ちなみにお風呂には仗助といっしょに入った。
「にいちゃん」
『…………ン、なんだ?』
子どもべやでいっしょのベッドに入ったんだけど、ふいに仗助がぎゅっとだきついてきた。かわいい。
「あした、あしたね。にいちゃん、かえっちゃうだろ」
ふあんそうにおれをのぞきこむ小さい子ども。光の当たり方がちがうのか、青にもむらさきにも見えるその目が「東方」のだれともあまりにていない……そのワケをおれは知っている。おかあさんと朋子さん(長いのでそう呼ぶことにする)が話しているのを、ぎょうぎが悪いんだけどこっそり聞いた。
『仗助』
「なァに」
かわいいいとこを強くだきしめ返す。
『どこまではなれてもな、おれは仗助のにいちゃんだぞ』
「……うん」
『またあそびに来るよ』
「うん」
仗助の力が強くてちょっとくるしいが、それでもはなさない。
『さ、今日はいっしょにねられるんだ。あんしんしておやすみ』
「おやすみ」
《次の日》
「忘れ物無い?宿題持った?」
『全てカンペキにおわらせてありますよ〜ッ、おかあさん』
じぶんのきがえでぱんぱんのバッグをかたにかけて玄関を出る。明日にはおとうさんが仕事でおれも学校だから、朝に朋子さんの家を出てほぼ一日かけて帰らないといけない。
「またあそびにきてね」
『そりゃもう!今度はなつやすみかな?』
「父さんの夏休みが不定期だから未定だよ……」
『おとうさん……』
十分ねていたはずのおとうさんがやつれはじめている。早く車にのらなければ。
「じゃあね朋子、父さん。仲良くやるのよ」
「そっちこそ、旦那に逃げられないようにね」
おかあさんと朋子さんは相変わらずだ。おたがいけんかしているみたいに見えるけど、あれがいつもの会話なんだ。
『じっちゃんもお仕事がんばれよ』
「おう、おう、頑張るぞ」
じっちゃんがおれの頭をなでる。手のひらが大きいから、ぐらりぐらりと目の前がゆれた。
「義父さん、お世話になりました。幸彦、行くぞ」
『はあい。仗助、またな』
「また来なさい、うちの娘を宜しくな」
「バイバーイ」
音を立ててドアをしめ、シートにひざ立ちになってうしろを見る。おかあさんがベルトをしめなさいと言ってくるがちょっと待っててほしい。
仗助がえがおで手をふっていた。だからおれもふり返す。見えなくなるまでずっと。
「『またね!!』」
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最終回っぽい雰囲気だがまだまだ序の口なんじゃ。
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