わだかまり 2
「おれ、幸彦くんがロハンくんのことつきとばしてんの、見ましたァ」
なにいってるんだこいつ。
『先生、おれじゃないです』
「じゃあなんで露伴くんはプールに落ちたの?……幸彦くんもだけど」
言ってみたけど、先生はいまいち信じきれないようだった。おれの事だけじゃなく、告げ口(と言う名の嘘)をしたそいつのことも。たしかに、突き飛ばしたんならなんで俺も落っこちてんだってことになる。おれ、そんなにドジじゃない。けがは多いけど違う、多分。
露伴はじっと俺と、先生と、うそつき野郎とをじゅんばんに見ていた。
ナナやタイチはどちらの味方をすればいいか分からないようだった。というか落ちた時のことをちゃんと見ているかもあやしい。他の子はひそひそ話をしながらこちらを見ている。そこでのおれはひとりぼっちだった。
けっきょくおれと露伴はあたまを打ったから保健室、他の子たちはプールを続けることになった。はいりたかったなあ、プール。
どこにもいじょうは無いけど、あんせいにしててねと言われたので白いベットに寝ころんだ。露伴がいちばんまどがわ、俺はそのとなり。氷まくらがひんやりとおれの頭を冷やしてくれた。
あ、これ気持ちいい。うとうととしかけた時のこと。
「……西之谷くん」
とつぜん名前を呼ばれてびっくりした。目を見開いて露伴を見ると、横になった世界の中で俺の方を見ていた。
『っんだよ、』
「なんで僕をたすけた」
『!』
またびっくりだ。
『なんで、』
「なんで分かったかって?いいさ答えてやろう」
まだそんな事言っていないのだが。とりあえず大人しく露伴の話を聞くことにした。
「きみがつきとばしたってあいつが言った時はね、すぐにそれを信じたよ。僕はみんなに嫌われているし、きみもれいがいじゃない」
『れー、がいって?』
「なかま外れってこと。でもきみ、僕のこと嫌いだろう。だかられいがいじゃない」
ぐっとのどの奥がつっかえる。たしかに俺は露伴のことを嫌っていたけど、面と向かって言われるとこんなにも何も言えなくなるのか。
「つづけるよ。でも、何か様子がおかしかった。あいつの目、すごくきょろきょろ動いててさ。しかもきみが先生に怒られてるとき、ちょっとにやっと笑っていたんだ」
『おまえそんなところまで見ていたのか』
こいつはどれだけおれをびっくりさせれば気がすむんだ。目を開きすぎてこぼれ落ちたらどうしてくれる。
「まあ僕はきょうしつのすみっこでずっと君たちのこと見てたからね。くせなんて全部オミトオシさ」
見られていたのかと思うとなんとなくフクズツ……ふくざつ?だったけど、なんとなく納得した。ふと思い出して、だから黒目と茶色目を分けてかけるのかと聞いたら、なんで知ってるんだとおどろかれた。今の所露伴とおれで3対1のびっくりだ。
「で、そいつがうそついてるの、もうバレバレじゃないか?」
『おれわかんなかった』
「きみ先生の方ばっか見てたろ。だから気づかないんだオタンコ」
『ひでェや』
「そしてもうひとつ。これは僕にとって決定的なしょうこになった」
ピッと指を立てる露伴は、おかあさんがよく見るすいりドラマの人みたいだった。何だろうとその次をじっと待つ。
「きみは、僕のことをりふじんな理由できずつけない」
露伴が笑ったところ、はじめて見た。
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