わだかまり
朝のバスで露伴とかち合った時、思い切りそっぽを向いてしまったのはおれのせいじゃあない。と思いたい。
あの夜からもう何日も過ぎている。あいかわらずおれと露伴の仲は悪くて、露伴は女の子にモテモテだけど他のやつからいじめられていて、おれはそいつらと遊んでいる。何も変わらない。
「みんな、水着と帽子、タオルとビーチサンダル、持ったかなー?」
ようこ先生がみんなに声をかけると、あちこちではーいと返事が返ってきた。だけどおれも露伴も返事をしなかった。まだ先生がおれに嫌がらせをしたことを根にもっていた。そしたらもう一回同じことを聞かれたので仕方なくはあい、と答えた。
空には太陽がかがやいていて、プールサイドのおれたちをじりじりと焼いていた。
「幸彦、幸彦!!」
『ん、ナナ?どした』
ふり返った先でナナとタイチが「ゴーグルびよーん」をやってきたので、思わず笑う。つっこみのかわりにチョップしたら二人が笑ったので、おれもまた笑った。
「おい、あれ」
ひとしきり笑った後に、タイチがちょっと向こうを指さした。その先を見れば、露伴がぼんやりと水面を見つめていた。
「オンナノコのロハンくんだぜ」
もう露伴は男だとはつっこまなかった。この頃にはもうおれら「おはな組」だけじゃなく、隣のおめめ組や年長さんのおくち組までこのあだ名が広まっていて。うじうじとスケッチブックとにらめっこしているからだと心の中で思ったが、その分おなかの中が重く黒くなった気がした。
『あいつなにしてるんだろうな』
「いっつもお絵かきばっかだし何考えてるかなんてわかんねぇーよ」
「おれあいつの絵見たんだけどさ、目の中にふたつまるがあるんだぜ、気持ち悪いのばっかかくんだよなあ〜ッ」
横で体操ずわりしていたイイダくんが、ゴーグルのいちを直しながら言った。
『それって、ちゃいろのまるとくろいまるじゃないか?』
「えっ西之谷くん、なんでわかったんだ?」
『だってほら、おれの目見て』
ナナとタイチとイイダくんがじっと俺の目をのぞき込んできた。おれはちょっとまばたきしながらがまんした。
「ほんとだ、変なの!」
『おまえの目もそうなってんの!』
「ほんと?なァタイチ、おれの目どう?」
「ちょっ、めっちゃこっちくんのやめろ!!」
タイチににじり寄るイイダくんを見て笑っていて、ふと露伴は何をしているのかともう一度そっちに目を向けた時。
まだじっとプールを見ていたそいつのうしろに。すぐうしろに。
このまえ露伴を突き飛ばしたあいつが、今度は水面に突き落とそうとしているのが見えて、
ばしゃんっ
ピピィィィッッと先生の笛の音が聞こえた。
「幸彦くん、露伴くん、大丈夫!?息できる!?」
そこまで深いプールじゃないんだから、先生はそんなに焦らなくていいと思う。
とっさに露伴とそいつの間に入ったおれは、ちょっと間に合わなくて押されて露伴もまきこんで、つるっと滑ってけっきょく二人いっしょに水の中。鼻とかのどに少しばかり塩素くさい水が入ったし、ちょっと頭も打ったけれど、何回かせきをしただけでどちらも無事だった。
「で、なんでプールの中にドボンしちゃったの?まだ先生入って良いって言ってないわよ?」
屋根のあるところまでおれも露伴も連れて行かれて、そんで怒られた。正直おれもなんでこいつを助けようとしたかわからない。むしろやらないほうが露伴だけ水をかぶる、で済んだんだろうに。
『あー、と』
突き飛ばそうとしたやつのことを言おうとしたが、あいつも一応おれの友達。言うのに少しばかり時間をかけてしまった。
「せんせー、おれ、見たよ」
こちらに向かってかけられる声。はじかれたようにそちらを見れば、さっき俺らを押したやつ。
「幸彦くん、ロハンくんのこと突き飛ばしてましたァ」
その時おれの中で、何かひやりとしたものが流れた気がした。
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主人公大ピンチ。
ジョジョ独特の言い回しがなかなか書けない。
どんどん暗くなっていってる気もするけど今だけだと信じたい。
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