君と未来を歩む | ナノ




全くの誤解



…………この時間誰も使っていなくて、たまたま空いていた理科教室に滑り込み、内側から鍵をかける。
二人の会話に水を差されないように。


それで、おれの考えを全て話す。あろうことかそいつは、顔色ひとつ変えずに最後まで聞き役に回っていた。今更違うと否定しても遅いのだから、諦めているのか初めから気づかれることを分かっていたのか、肝が座っているというのならそれなんだろう。

「で?」

『で、ってなんだよ』
「君が言いたいことは以上なのか、とね」
露伴はつかつかと教室の中心へ歩いていき、机にのっけてあった木の椅子を下ろす。そこにふてぶてしく足を組んで座ると、隣の席を手で指し示した。
「まあ座れよ。そこで突っ立っているのは疲れるだろ?」
『……』
特に悪意があるわけでもないし、大丈夫だろうと思って歩き出す。
露伴の膝をまたいで自分の場所に座ろうとしたとき。

               ガタン!

大きな音がして体が宙に浮く、瞬間ヒビが入ったんじゃないかってぐらいに強い衝撃!後頭部が大火傷よりも熱くじんじんする。なんだ?なんだ!?
『、な、』
とりあえず打ち身の部分に手を当てる。痛いというか、今何が起こったのかすら分からなくて呆然と隣を見る。真顔でこちらを見ていた露伴は、しばらく見つめあっているうちに耐えきれない様子で吹き出し始めた。
「………ひひ、ははは!無様だな幸彦!」
『………あ〜ッ!てめえおれの椅子引いたのかッ!通りで体が軽く浮いたと!』
「きみが騙されやすいから悪いんだろ、はははは!」
愉快そうに腹を抱えて笑うそいつにムカッ腹が立ったので一言物申してやろうと、大きく息を吸い込む。そもそもここに来た理由が理由なのだ。


そしてその行動も、露伴によってストップをかけられる。


勢い良くアゴをつかまれて強制的に顔の位置が固定された。言うまでもなく正面には露伴の顔の拡大版、文字通り目と鼻の先にヤツはいた。顔が怖い。

「誰に吹き込まれた」
『ハァ?』
「誰にそんなフザけた嘘を吹き込まれたと言ってるんだこのアンポンタンッ!!」
こまくが破れそうだ、と思った。地震の振動のような、びりびりとした感覚が全身を襲う。コイツは怒っているのだ、でもなぜだ?普通おれが怒る場面じゃあないのか?

「僕にはきみを手放す理由がないッ!それどころかきみのその力を利用する理由さえ無い!
 そんな浅はかなことをする人間だと思われていたのか僕はッ!?」

アゴががくがくと揺らされて脳みそも揺れる。さっき頭を打ったばかりだというのにようしゃがない。先ほどまで椅子を引っ張って大笑いしていたヤツとは似ても似つかぬその鬼のような顔で、言葉の内でも外でも犯人を言えとおどされる。

『……おれ』
「何だって?」
『おれだよ。おめーのこと疑ってたのは、浅はかな人間だって思ってたのは、
 他でもないおめーの元親友だ』
さっきの露伴の態度からして、どうやらおれの考えは間違いだったのだろう。変に他の友達やらを疑われるよりはさっさと白状した方がいい。
ついでに驚きすぎて目を見開いた露伴に、次の言葉を投げかける。

『なあ露伴、人間“イイ気”になっちゃあいけないんだぜ』
イイ気になったらいつどこでリフジンな恨みを買うかわかったものじゃあない。つまりは誰も信用しちゃならないってことだ。

『飼い犬に手を噛まれるって言葉……あるだろ?信じていたヤツに裏切られるって意味。
 犬って上下関係を大切にする生き物だからさ、普通なら人間が上って思うだろ?手を噛まれた飼い主だって思ったはずだぜェ、いつも餌をやって散歩もして、よごれたらシャンプーして小綺麗にしてやってるのは誰だって思うわけだぜ……だがよぉ〜』

ビシィ!と空気を切る音が出るほどにきつく露伴を指差す。人差し指だけでなく中指も真っ直ぐに立てて、視線で露伴を貫く!

『そのワンコロが飼い主の手を噛んだのは、そいつを心の中では見下してたからだぜッ!自分の方が上だっつー意識がその犬にある!人間だからって勝手に上だと思い込んでるヤツが痛い目見たって話だぜ、つまりよぉー……


“イイ気になっていた飼い主がバカだ”ってんだからよッ!』


そこまで言い終えると、そいつはフンと鼻で笑った。
「で?きみは何が言いたいのさ。結論を言えよ」
『てめーのおれに関係する記憶を消すッ!そして二度とおれに近寄るなと命令する』
「どうしてそんなことする必要があるのか、理由を聞かせてもらえないか」
『一度信用できなかったモンはこれからも絶対に信じられないからだぜッ!露伴ッ!さっきの怒りようがマジだったとしてもおれはまだおめーを疑ってんだ!』

重い木の音をたてる椅子から勢い良く体を持ち上げ、足の裏で押し出すようにそれを蹴り出す。弾かれたよう立ち上がり距離をとる露伴にワンテンポ遅れて椅子同士がぶつかり合い、倒れた。
『避けてんじゃあねーぜ!』
「怪我するかもしれないだろ」
全うなことを言いやがって!いくらこいつが利用したいとか気味が悪いなんてことを思っていなくても、おれの心と意志が許さない!疑わなければいけない、たとえ自分の大切な支えになってくれる親友だとしても!
なぜなら……


ガラリ、ピシャン!と戸の空いて支柱とぶつかる音が聞こえ、しまったと思った。逃げられた!
『クソッ どっち行きやがった!』
ドアに走り寄り、顔を出して左右を見る。左にはまだろう下が繋がっているから右の階段か、と判断して走り出そうとしたところで肩を持たれ、引きずり倒された。
何が起きたんだ?と上を見上げるとまたもやアゴをわし掴まれ、さらに両のほおに指を押し当てられて口を開かされる。
なんだと驚く暇もなく何か透明で冷たいものがずぶりと遠慮無しにねじ込まれた。

『?ン、んぶ? ?』
「一瞬キチンと僕の方に注意を向けてなかっただろ。命取りだぜ」
口に入れられて声を封じたのは試験管だった。そしてそれをやったのは……


『!』


「上履きといい椅子の件といい、なんだかんだ言って律儀で簡単に人を信じるきみがどうして……
こんなに捻くれたのか。
聞かせてもらおうか、まだ僕はきみのことを全て理解していない気がするんだ」






                                    続く


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