君と未来を歩む | ナノ




つよくて悪いおれの力



「必殺技、と言っても二つ、種類があると思うんだが」
新しく買って貰ったというシンクロメカチェアに座り、背もたれに体重をのせる露伴。ギイィときしむ音が、おれの耳の中に侵入してくる。




意外に露伴のノリが良く、好きなポーズをスケッチさせることを条件に必殺技を共同せいさくすることになった。こいつは頭が切れるから、おれの代わりに何か良い案を思い付いてくれるだろう。
そもそもだね、といやに格好つけた態度で必殺技のなんたるかを語り始めた露伴にじれったさを感じながら、今は大人しく座って話を聞いている最中だ。

「まず一つめは読んで字のごとく、《必》ず《殺》す《技》 これはきみがうっかり!そう、つい魔が差して命を奪ってしまったあの事件のような結果になると分かっているね」
ピッともったいぶったように指を向けてくる我が親友。いちいち言い方が気に障るけれど甘んじて受け入れる、と言うよりも、こいつの言うことにぐうの音もでない。

「二つ目はきみの好きなアニメやマンガに出てくるタイプ。勧善懲悪、つまり大体はヒーローが悪の組織を倒すなんて時に使うよな。ライダーキック然り、かめはめ波然り。だがしかし……」
『しかし?』

「きみのそれって、どう考えても悪者向きの能力なんだよなぁ、
 それもコソ泥みたいにセコくてこ狡い」

『………ッ!』
一瞬目の前が真っ赤に染まる。今、こいつはおれのことを何と言った?コソ泥だと?
だけど露伴にとっては何気ない一言のようだ。一番近くでおれの能力を見てきたこいつだからこその評価なんだろうが、おれにとっては「悪者め、この世からいなくなれ」と罵られるのと同じ意味を持つ言葉だ。


               片桐安十郎。


おれにとっての悪者はこいつ一人。
こんな風になるものかと誓ったのもこいつ一人ッ!
ましてやこんなヤツと同じ悪者などと!
未だにおれの様子に気づかずべらべらと言葉を並べる露伴は得意そうだ。なんだ、こいつ、イイ気になりやがってっ!おれが言われたくない言葉ナンバーワンを軽々しく口にするんじゃあないッ!
『訂正しろ……』
「………なんだと?」
『訂正しろと言っているんだ!岸辺露伴ッ!おれは悪くないぞ!』
ようやく理解したのか、ちょっとの間目を見開いてそれから馬鹿にしたように鼻で笑う。
『いったい何がおかしいってんだよ!』
「僕が言ったのは能力の話であって、君個人が悪いだなんて一言も言ってないぜ。
 ちょっとその手の話題に敏感になりすぎだ。落ち着けよ」
そして座れ、と冷静に対応されて、ようやく無意識に立ち上がっていたことを知る。
……確かに、さっきはおれの能力のことを指した話題だった。一度座り直して頭を振る。落ち着かなければ。

「で、話を戻すんだけど………そもそもきみさ、何で必殺技なんて欲しいと思ったんだい?近頃は特に目立った事件やなんかも起こっていないじゃあないか」
『……』
言葉がつまる。露伴の疑問はもっともなことだ。こんな平和な生活のどこに地球を滅ぼしたり、世界征服をたくらむ悪の組織なんてふざけた存在がいるっていうんだ?
そういうことなんだろうけど、そういうことじゃあない。

『………毎日が、こわいんだ。いつまた襲われるかもしれないのが』
「その力で叩きのめせば良い。気安く人に使うなとは言ったけど、身の危険を感じたら手近な武器は有効活用しなくちゃ損だ」
『武器なんて手に持ってたって意識しなくちゃ使えないじゃあないかッ!』
わめき散らして頭をおさえる。手も体も爪先まで勝手にブルブル震えだして、思わず自分をじぶんごと抱き締めたのに、全く寒気が治まらない。
ノイズがかかったように聞こえなくなる耳に、薄く露伴の慌てたような声が入ってくる。直後背中に暖かい何かがはりついて、思わずびくりと体を揺らす。

「落ち着けよ、僕だ」
ゆっくりと背中をさすられて、だんだんとこわばった姿勢がとけていくのを感じる。

『……おれの“これ”は、使うって思わないと使えない役立たずだ。
 耳栓で防げるし、そもそも声の届かない場所とか、いきなり後ろから襲われたらあっけなくやられちまう』
「だから必殺技なんて馬鹿げたことを」
さすられている方ではない露伴の手をたぐり寄せて、体育座りのすき間に入れる。背中から露伴がおれを抱きしめる形になるけれど、そいつはなにも言わなかった。

『ばかげてないぜ、だって露伴以外信用ならないんだもの』
周りのみんながいつ敵になるかもわからない。超能力のことがばれたら友達も先生も、父さんや母さんだっておれのことをケイベツするだろう。見捨てなかったのは露伴だけだ。
露伴がいなくても大丈夫だけど、他の身近に信用できる人を作るのはとても難しい。仗助のように力が強くてなんでも直せる超能力でもないし、頼りになる幽霊もいない。いつでも身を守れて、敵を消せる手段が欲しい。

ぴたり、とおれの背中をさすってくれていた手が止まったので何事か、と思い、目だけ横に向ける。しばらく口に指を当てて考え込んでいた露伴は、一つうなずくとにっこり笑った。
『な、なんだよ』
「………なあ、幸彦」

次に露伴の口から飛び出した言葉は、とうていおれには信じられなかった。


「2学期からは絶対、僕に話しかけないでくれ」




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