君と未来を歩む | ナノ




隣の



「そういば、露伴くんとあんたって仲悪いの?」



夕飯の最中に、おかあさんがそんなことを聞いてきた。
今日の夕飯はチャーハンと卵のスープ。ミックスベジタブルととても小さいサイコロのお肉が入っていて美味しいと思っていたご飯が、その一言で急に美味しくなくなった気がした。

「なんだ、岸辺さんとこの子供と喧嘩でもしたのか?」
早めに帰ってきたおとうさんも参加してきた。おれはスプーンを皿の上に置き、自分の足を見つめてぶらぶらさせた。
「この子ね、露伴くんにしつこくし過ぎて喧嘩しちゃったらしいのよ」
「クレヨンの話だろ?前聞いたよ」
「そうだったかしら。それでね、先生が気を聞かせて露伴くんと仲直りさせようとしてくださって、一緒に遊ぶように言ったらしいんだけど……」

そんなの嘘だと思った。なんであいつと仲直りしなくちゃいけないんだ、クレヨンを投げてきたのはあっちだ。しつこく話しかけたのだってあいつが友達いなさそうだったからで、自分から周りに話しかけないあいつが悪い。先生はきっとおれに嫌がらせをしたかったんだ。俺の嫌いな露伴をけしかけて、俺がいやがるのを見たかったんだ。

ぶすくれた顔を見せないように額を机に軽く打ち付け、ごすごすと音を出す。
「あら、もうお腹いっぱいなの?」
おかあさんが言ったことははずれだったが、美味しくないチャーハンを無理して食べるのも嫌だなと思って、ごちそうさまをしてからいすを下りた。






宿題をして、お風呂に入って、歯みがきをして後は寝るだけ。だというのに、ずっとおれは露伴の事ばかり考えていた。

(なんであいつはあんなに嫌な奴なんだ)

思えば露伴は、幼稚園に来てからここまでほとんど誰とも話していない。話したのは転入して来た時と、俺と喧嘩したあの時と、先生に言われておれのところに来た時だけのような気がする。もしかしたら俺の見えない所で誰かと話しているかもしれないと思ったが、あいつのことだからそれは絶対ないと思う。じゃなきゃ隅っこで絵なんかかいてないはずだ。

こうして思い出すと、あいつと一番話しているのはおれだ。しかもふたつ目とみっつ目はずっとケンアクな雰囲気だった。またいらいらしてきて、だれもいないのにげぇーっと舌を出した。




(外の空気を吸おう)

頭が熱くなって眠れなくなったので、窓を開けて夜の町を見おろす。と言ってもおれの部屋は二階なのでそんなに高くもないんだけど。
外は街頭や月の光で、電気を消したおれの部屋よりも少しだけ明るかった。今は8時だからもうすぐ二つとなりの家のおじさんが仕事から帰ってくるのが見られる。

涼しい風に当たりながらぼうっと月を見上げていると、どこからか変な音が聞こえてきた。

耳をすますと、それは誰かの泣き声だった。





「……っえ、……っちゃんっ」


あたりをぐるりと見わたせば、すぐに誰が泣いているかが分かった。



「れいみ、おね、ちゃん、……なんで、」


露伴。時々えぐっえぐっとつまりながら、誰かの名前を呼んでいた。

あの嫌な奴があんなに泣くなんて。この間の、泣くまいとこらえていたあの顔を思い出した。


隣の家のベランダで、あいつがなみだを流す理由。ちょっとだけそれが知りたくて、思わず身を乗り出してしまったことを後悔している。


「れいみっお、ねえちゃん、なんで、なんで」



その先は聞いちゃいけなかった。












「なんで、しんじゃったの」










息をのむと同時にバランスを崩し、その拍子にどたんと大きな音を出してしまった。
急いで身を起こし、窓とカーテンを閉めてベッドに潜り込む。
心臓はいまだ爆音を鳴らしている。気づかれただろうか、おれだとばれていないだろうか、いやそれよりも。



『しんだ、って』



声に出せば、それはおれの足の先から冷たい空気をはこんできた気がした。
汗をかいているのに寒くて、べっとりとして気持ち悪くて、おれは布団に潜りこんできつく目を閉じた。









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露伴くんのお隣さんと露伴くんの秘密。

そして露伴の「だれだこいつ」感。







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