大切なただの幼馴染み
子供の頃から焼き付くように残っている記憶がある。
『貴方、また女のとこに行っていたんでしょう!?』
『何を言っているんだ?仕事だと言っているだろう!』
『……さない……絶対に許さない!!!』
立海大学付属中学。様々な生徒が通う学校に僕──巫魅桜も通っていた。
『魅桜、早いね、おはよう』
『精市、おはよう!』
幸村精市。僕の幼馴染みで、男子テニス部を纏める部長だ。
『どうしたんだい? こんなとこで……』
朝練は終わっているんじゃ……呟くと精市は、部室の戸締まりをしてたんだ、と言う。
『なんだ、こんな寒い中で何してたのかと思ったよ』
風は冷たく、陽射しが分厚い雲で遮断された天気は、十一月といえど侮れない寒さだ。
『そんなこと気にしないでよ。偶然でも朝から魅桜に会えて嬉しいし』
校舎の中へと足を進めながら話をする。精市とはいつも話をするが、部活の話はあまりしない。けど特別聞きたいわけじゃないからいいか。『ほぼ毎日会ってるだろ?』
家も隣同士なんだから、と言えば、そうだねと微笑んだ。
『幸村くん、巫さん、おはようございます』
『柳生、おはよう』
『相変わらずお二人は仲がいいですね』
『幼馴染みだからね』
幼馴染み。自分で言っておいてアレだけど、僕と精市の関係を表すのにぴったりな言葉だ。
柳生は少し話をすると、さっさと教室へ戻って行った。
『……何の話したの?』
『ただ見かけたから声描けただけだって』
『ふーん』
精市とはクラスも委員会も一緒だから、毎日顔を合わせて話をしている。
『魅桜、昼休みも一緒にご飯食べようか』
『うん、いいよ』
精市は大切な幼馴染み。この関係がずっと続くと、僕は自惚れていたんだ。
『あ、ごめん、丸井に英語の辞書貸す約束してたんだ。ちょっと行って来るよ』
『うん、行ってらっしゃい』
『魅桜……』
そう思っていたのは僕だけだった。
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