やがて重なりあう

跡部が用意してくれたヘリの中、僕は気が気じゃ無かった。あの何かが折れるような音と丸井の悲鳴。もしかしたら立海が謎の爆破物で真っ二つになっているんじゃないかとか、立海の皇帝ご乱心だとか、そんな現実味のないことが脳裏に浮かぶくらい混乱していた。
いや、二つ目はあり得るか。
『巫!着陸するぞ!』
『そんなの待ってられるか!』
跡部の言葉を無視して縄梯子を樺地から引ったくると、それを引っ掻けて縄をぎゅ、と握り締めて一歩ずつ降りていく。
自分の身長の三、四倍高さはあるが、後込みしてもどうにもならない。
僕は中庭の一番高い木をクッションに飛び降りた。



『…ったく、無茶しやがって。おい樺地!』
『ウス』
『医療班に連絡を入れろ。直ぐに駆けつけられるようにな』
『ウス』









数ヶ月振りの立海に懐かしむ暇もなく飛び降りるたはいいが、思い切り尻餅をついてしまった。
いや、尻餅で済んだだけましというものだ。

夏休みで人気の少ない立海からは尋常じゃないオーラが漂っている。
テニスコートに向かう途中、砂ぼこりに紛れた見たことがある赤髪が視界を霞め、足を止める。
…間違いない、丸井だ。丸井だけではない、真田や柳もいる。
僕は全速力で駆けつけた。
『真田!丸井!柳!』
呻き声をあげながら真っ先に立ち上がったのは真田だった。だが、何故全員こんなにボロボロなんだろう…嫌な汗がどっと伝う。
『巫!?』
『…本物、か?』
『僕の偽者なんて聞いたことないけど…じゃなくて!何があったんだ!?』
真田は悔しそうに唇を噛み締めると、柳が順番に説明する、と言い出した。
『まず、この状況は一体…?』
『…これは、全て精市が起こしたことなんだ』










精市の手術が成功したのは聞いたか?…そうか、丸井が…ああ、それで、精市は早速部活に復帰した。ここまではまあいい。
だが、偶然精市は巫のあの噂を聞いてしまった。
そう、巫が精市の精神を狂わせるという話だ。
それを知った精市はコーチを問い詰めた。そうしたら、コーチの口からはとんでもない言葉が出てきた。
『そんなことよりも三連覇のほうが大事だからただの幼馴染みなどさっさと忘れろ』
その言葉を聞いた精市はコーチを理性的に攻撃した。






『そして暴れ続けて今に至る、ということだ』
『精市…』
精市はどんな気持ちだっただろう。僕にも、信頼するレギュラー達にも嘘をつかれ、やっと病を克服したところで現実を突きつけられて。
『怪我を負っているのはテニス部だけだからいいものの…被害が悪化したら…』
テニス部は全国大会出場停止、最悪の場合…廃部だってあり得るかもしれない。
だが、彼等の運動神経なら全員がかりで何とか止められるのではないかという疑問が浮かんだ。
『…柳達止める気ないのかい?』
『精市が怒るのもわかる。それに…止められるのはお前だけだろう』
『…すまねぇ巫、お前のためと思ってやったのに…裏目に出ちまった…』
丸井がよろよろと立ち上がろうとした。もういいから、と言ってそれを止めた瞬間。
風を切る音が耳を掠めると、黄色い何かが視界に入った。めき、と木に食い込む音がいやに響く。
黄色いそれはテニスボールだった。
ぐら、と木が倒れこんで来るのを見て、咄嗟に二人を庇った。
『真田!丸井!』
どんっ、と体当たりをして二人を引き離すと、ぐしゃ、と音と共に木は崩れ落ちた。とりあえず木の下敷きにはならずに済んだが、丸井の下敷きになった。流石に痛い。前より太ったろお前。
さっきの尻餅ついた時の痛みと体当たりした痛み、そして追い討ちに丸井の体重のトリプルパンチ。打ち所が悪かったらしく、頭がぐらぐらする。
いてて…とゆっくり起き上がると、目の前には青髪を揺らした人物が立っていた。
『せ、いち…?』
『魅桜…?本当に…?』
痛みに悲鳴をあげそうになる身体を起こすと、精市はふらふらと覚束ない足取りで僕の手を握りしめた。
『精市…ただいま』
そこで、意識は途切れた。





やっと会えた。

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