ひとつ、またひとつ
氷帝で過ごすようになってから、数ヶ月が過ぎた。跡部とはまぁ他の子より早く知り合っただけのクラスメイトで、特に著しい変化は無かった。
今日までは。
体育祭を終えた数日後のこと。
靴箱には可愛らしい手紙が入っていた。
『おはよう巫さん。モテモテやなぁ』
『からかうのはよせ、忍足』
そう、所謂ファンレターだ。体育祭で推薦されて仕方なくやった応援団長がこれまた女子生徒に好評だったらしく、それ以来一緒に昼食を食べて下さいだのお茶会に来て欲しいだのいかにも金持ちのお嬢さんみたいなことが書いてあった。
『断るのも悪いしなぁ…』
『巫さん断るの苦手なん?』
『下心を否定できないとはいえ、折角誘ってくれたんだし…』
僕は昔からそうだった。何かを断るとか、誰かを怒るとか、そういうのが苦手なのだ。別にいい顔したいわけじゃない。誰かに強制されたりするわけでもなく、何となく、流れに乗るように。そんな生き方をしてきたのだ。
『…仕方ない、返事書くか…』
『モテる女は辛いなぁ巫さん』
『殴るよ?』
立海を離れてから、もう何年も経ったような感覚がする。実際はそんなに経ってないのに。
柳とは連絡を取り合っているものの、精市の話題をお互い出さないため、いつも聞かずじまいになっていた。
テニス部というのはどこも派手なのか、これ以上巻き込まれたくない一心で過ごしていた。
更に時は流れ、全国大会の季節になってきた。
立海は関東大会でどうやら負けたらしい。真田とか絶対準優勝のトロフィーみたいなのあっても受け取らないよなぁ…あいつ頑固だし。
氷帝も全国大会出場が決まった数日後。
僕の携帯が震えた。
『巫!俺だ!丸井だ!!』
『丸井?なんだい?』
『直ぐに戻って来てくれ!』
『はぁ?』
『幸村クンの手術、成功したんだ!』
『えっ!?それ、本当か!?』
『けど…うわぁぁぁっ!ゆ、やめ…ぐあぁぁぁぁっ!』
『丸井?どうした丸井!?』
ぐしゃ、と何かが崩れる音がすると、無機質な音しか聞こえなくなった。
わけがわからなかったけれど、確実に言えるのはただひとつ。
―――直ぐに立海に戻らなければならない。
僕は跡部の元へと走った。
『跡部っ!!』
『巫?どうした?』
『直ぐに立海に連れて行ってくれ!早く!!』
立海で何があったのか、それ以上に、僕は幼馴染みの安否が気掛かりだった。
ひとつ、またひとつ
『魅桜…どうして…?』
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