先輩と俺の休み時間 あれ?忘れた? 「どうしたんや財前、もしかして忘れもんでもしたかー」 隣の席のこの男に、机やら鞄やらをがさごそとしているのがバレたみたいだ。 「…英語の辞書忘れた」 「だっさ!!財前だっさ!!」 …うぜえ。大体辞書置いて帰るなとか、担任は鬼やろ。それになんで電子辞書はあかんねん。かさばるし重いっちゅうねん。 「隣のクラスの奴にでも借りてこいや。ん?財前くんちゃんとオトモダチおるか?」 「うっさいわ、ニヤニヤすんな」 教室を出て足を向けるのは隣のクラスではなく隣の校舎。 別に友達おらんわけやあらへん。 あ、おったおった。 「名前先輩」 ここは3年の教室。そう、名前先輩の教室。 自分の席に座っている名前先輩に話しかける。 「あれ?財前なにか用事?」 「すんません、辞書忘れてしもたみたいで、貸してくれません?英語の」 「財前が忘れ物?珍しいね」 しょうがないから貸してあげるよって、先輩は少し得意気にかばんから辞書を取りだした。 「名前先輩は次の授業なんっすか」 「次はねー数学だよーやだよー」 そう言って机に上半身を預ける。 「せいぜいがんばってください」 「自分から聞いたのに興味なさすぎでしょ」 興味あらへんわけじゃ無いねんけどな。 「じゃあ何て言うて欲しかったんすか」 「えー、応援とか?」 「がんばれって言いましたやん」 「財前のは気持ちがこもってなかった」 わがままなお嬢だ。 「はいはい、すみませんがんばってくださいませ名前先輩」 こっちを見ている先輩の頭を軽く押さえてから教室を後にする。 後ろ手にお昼にまた来ますわ、そう一言そえて。 そしてその時、俺に頭をなでられた先輩の顔が、ほんのり赤く染まっているなんて俺にはわからなかった。 なぜなら俺は、先輩に触れてしまったという戸惑いと喜びを、静かに味わっていたからだった。 |