目覚めさわやかな日曜日。
ベッドの横に置いてあるローテーブルに手を伸ばす。
時刻を確認すればすでに10時をまわっていた。
…ちょっと寝すぎた?
そういえば昨日の夜は、土曜日だからってうれしそうに遅くまで謙也とメールしていたんだった。
謙也は日曜も部活だって言ってたけど。
朝も早いはずなのに私とメールしてくれるという事実に、うれしくて心臓がきゅんとした。
昨日のメールを見返してみれば、謙也から受け取ったものが最後だった。
しまった、私が寝落ちしてしまったのか。
「多分部活真っ最中やろうけど、メール送っとこかな」
“昨日は先に寝てしもたみたいでゴメンな
今日も部活やろ?がんばってな”
っと。かわいい顔文字も忘れない。
今日することを考えながら少し、布団の上でまどろんでみる。
天気もええし、掃除でもしよっかなー。
とりあえず顔洗って遅めの朝ご飯にしよう。
リビングに出たらきっとお母さんに寝すぎだとどやされるだろうけど。
お母さんから言われるであろうことを想像しながら顔をしかめているときだった。
右手の中にあったケータイが震えてメールの受信を知らせてくれる。
ん?謙也?あいつ部活中やないんか?
受信ボックスを開けば知らないアドレス。
“おはよう名字さん。3組の鈴木やねんけど分かる?
名字さんと同じクラスの宮田からアドレス教えてもらったねんけど
今日ヒマやったりせえへん?”
…なんや、この用件を一気に詰め込んだメールは。
てか鈴木って誰やねん。まじ宮田のやつ何してくれとんねん。
だいたい男やったらアドレスくらい本人に聞きに来いよ。
アドレスなんか教えてやらんけど。
私は謙也の彼女でもなんでもないというのが悲しきかな事実だが、そんなもの関係ない。
私は謙也しか見えていないのだ。
私は、自身が白石から謙也のアドレスを教えてもらったことなどすっかり忘れて、この鈴木とやらに説教じみた思いを抱く。
そしてさっきも言ったように、私は謙也しか見えていない。
“鈴木くんゴメンな〜。今日先約入ってんねん”
素っ気ないにしてもちゃんと返事する私めっちゃ律儀!ええ子!!
ケイタイをパジャマのポケットに入れて顔を洗うために洗面所へ向かう。
洗顔を終えてリビングへ出れば、テーブルの上には目玉焼きとトースト、そして予想通りお母さんの小言が待っていた。
「で、名前、あんた今日何するの?」
「あー、何も予定ないから部屋の掃除しよかなって」
「だったら天気いいから布団とか干しちゃいなさい」
「うん、そうする」
トースト用のジャムと、オレンジジュースを出そうと冷蔵庫の前に立った時、存在を忘れていたケータイが震えた。
どうせ鈴木とかいうやつやろな、とか思いながら一応受信を確認する。
ほら、やっぱり私、律儀でええ子やからな。
画面を見れば、それは予想とは違う人物からのメールで。
わ、謙也やん。
“おはよ。寝落ちとか全然かまへんで!
ところでな、今日の午後ヒマやったりせえへん?
部活午前中で終わるねんけど、そのあと二人で
出かけてみたりしたりせえへんかなって思ったねんけど…
忙しいならかまへんからな!”
こ、これはもしかして
「デートのお誘いやんな…」
なんやねん、出かけてみたりしたりせえへんかなって。どんな言葉の使い方やねん。
迷いながらこのメールを送ってくれたんだろうと想像するとニヤニヤが止まらない。
あかん、めっちゃ嬉しい。
「お母さん!今日予定出来た!掃除はまた今度するわ!」
布団ぐらいは干しときやーっていうお母さんの声が聞こえたが、私は自分の部屋に行って勝負服をひっぱりだして鏡とにらめっこを始める。
どんな格好していったら謙也に可愛いって思ってもらえるのか、私の少ない脳みそはフル活動し始めるのだ。
あ、鈴木とかいうやつに“謙也とデートっちゅう予定あんねん”ってメールしてやろうか。
浮かれ度100パーセントの私はそんなこと考えてしまう。
待ち合わせまであと数時間。