部屋の模様替えをした。
カーテンを新しくした。
座り心地のいいソファも買った。
三面鏡のついたドレッサーは一目惚れだ。
ベッドの位置も変えたし、
お気に入りの小物たちもきれいに陳列した。
新しくなった空間を見渡す。
前よりも機能的に、そしておしゃれになった。
好きなものでいっぱいの空間。
なのに、なのに何か足りない。
さて、何が足りないのか…。
新しいソファに座って考えてみる。
…うん、悩んだだけあっていい座り心地である。
これから私の定位置になる予定だ。
ほっとした瞬間を見計らったように鳴り響くチャイム。
そうだ、やつが来ることを忘れていた。
「あれ?名前?いるんでしょ?」
鍵を閉めていたはずのドアを開けるのは私以外にはただ一人。
「勝手に入ってこないでくれます?精市さん?」
「何言ってんの名前。君が俺のこと呼んだんでしょ。
それに何のために俺に合鍵渡したの?」
呆れたように笑う精市の右手には私の部屋のスペアキー。
そして左手にはコンビニの袋が握られてる。
その袋の中に入ってるのは…。
「あ!私のプリン!」
「そうそう、名前のために買って来てあげたから早く俺をソファに案内してくれます?」
私はうなずいて精市をお気に入りのソファに通す。
「スプーン取ってくるね」
そしてスプーンとグラスを用意して、これまた精市が買ってきてくれたオレンジジュースをソレにそそぐ。
「部屋の雰囲気ガラリと変ったね」
「でしょ、ソファも買っちゃった」
「うん、俺好みの座り心地」
「違うよ、私好みだよ」
精市の横に座り、プリンを頬張る。
模様替えちょっとがんばっちゃったから甘いものがうれしい。
「おいしい?」
「うん、おいしい。ありがと」
横に座る精市は、ふわっと笑ってオレンジ色に染まったグラスを傾ける。
精市のその笑い方、好きだな。
「何?どうかした?」
じっと精市の方を見てるのがバレた。
「別に!精市越しのドレッサー見てただけ!いい部屋だなって!」
「なにそれ。ま、いい部屋になったね。
俺がいつ来てもいいようにきれいにしといてね」
ああ、この部屋に足りなかったもの、いま分かっちゃった。