「萩之介、」

名前を呼びながら、彼女はいつものように左手を差し出してくる。

「はいはい、名字さん」

彼女は友達とだったらすごくおしゃべりな人なんだけど
俺といるときはなぜか口数が少なくなる。
よくしゃべるときもあるんだけどね。

まあ、俺もそんなにしゃべるほうじゃないし。
ちょうどいいかな。

ニコニコと俺と手をつなぐ彼女を見て、そんなことはどうでもよくなったけど。

「萩之介はさ、」

おっと、今日はよくしゃべる日かな?

「なんだい?名字さん」

「いつまで私のこと名字で呼ぶの?」

「結構気に入ってるんだけど、ダメかな」

「いや、ダメじゃないけど」
 
「じゃあいいじゃない」

なんで名前で呼ばないのかって?
理由なんてないんだけどな。
本当に、『名字さん』っていうのが気に入ってるだけで。

一瞬だけ、彼女の手を握る力を強めてみる。
すると彼女は

「そだね、まあいっか」

って笑うんだ。

「じゃあさ、名字さん。
 名字さんはなんで俺の前では少し静かになるんだい?」

「それはね、いつも萩之介と手をつないでるからだよ」

「そうなの?」

「うん、そうなの」

「そんなもん?」
 
「うん、そんなもんでいいんじゃない?」
 
「そうかな」

「そうだよ」

「じゃあいっか」

「うん」

今度は二人ともの力が少し強くなった気がした。






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