ねえ仁王、聞いてくれるかい?
そう切り出した幸村は俺と目を合わせることなく口元を緩めている。
「なんじゃ幸村、どうせ名前のことじゃろ」
聞きたくないと言っても話し出すくせに、聞いてくれる?とはよく言えたものだ。
「どうせってなんだい仁王」
その通り名前のことだけど、と続ける幸村は立海テニス部のマネージャーであり幸村の彼女の名前を目で追っている。
「名前の制服のポケットにね、いつも飴とかチョコが入ってるんだけどね」
知っとる。時々アメくれるし。
「うん、それはもちろん周知の事実だと思うんだ。でもね、今日は違ったんだ」
今日の名前?
大体、名前とはクラスが違う。校内で会うことはめずらしい。
今日だって、初めて会ったのは十数分前の部活が始まるとき。ジャージ姿だった。
「うん、昨日ね、名前ったらポケットにうまい棒入れてたの」
うまい棒?
「そう、うまい棒。コーンポタージュ味だった。制服のポケットだよ?そりゃあはみ出るに決まってるじゃん。しかも邪魔そうなの」
幸村は楽しそうに続ける。
「それでね、名前ったら朝からポケットに突っ込んでたらしくて、食べようと思った3時限目の後の休み時間には中身が粉々だったんだって」
はあ。それはそれは。
「名前ってほんと馬鹿だよね。もう馬鹿通り越してかわいい」
はあ…。
自然とため息がこぼれるのもしょうがない。
いつもそうだ。なんともしょうもない話をしながら、結局こいつは名前がかわいいと言いたいだけだ。
未だに、名前ってばちょーかわいい。馬鹿みたいにかわいい。あ、普通に馬鹿か。なんて貶しているのか褒めてるのか分からない幸村を横目に、自分も名前に目を向ける。
うん、今日もスポドリ作っている名前は、よくがんばってくれているマネージャーだ。
「あ、仁王、いくらかわいいからって名前は俺のだからね」
そんなこと言われんでもわかっとるわい。
そんなしょうもないことでニコニコできるんやったら、俺も彼女作ろうかの。