「ねえねえ幸村、聞いて聞いて」
2限目の数学が終わるとすぐに、私は後ろの席の幸村に話しかける。
幸村は数学の教科書を片づけているところだった。
「なに、名前」
幸村は私の方に視線を送るが、それはすぐに教科書へと戻った。
「あのね、今日ね、私の誕生日なんだ」
幸村は3月生まれだから、私の方が大人だね。なんて。
幸村はふーん、とか言ってる。
「え、ちょっと幸村さん幸村さんよ、おめでとうって言ってよ」
「なに?名前のくせに祝いの言葉を強要するの?」
「今日くらいちょっと浮かれてもいいじゃんかー」
名前のくせにってどういうこと…。
「ふふ、誕生日おめでとう」
「…うん、ありがと」
自分でお願いしたくせに、おめでとうって言われるとちょっと照れるね。
幸村からおめでとうを言われて満足。
私も次の授業の準備を始める。
「あ、そうだ名前」
名前を呼ばれて振り返る。
「誕生日の名前にいいものあげる」
手出してって。言われた通りに手を出す。そこに乗せられたのは手のひらサイズの箱だった。
「これなに?」
「いいから開けてみて」
黒い箱の中身はノバチェックのハンカチ。
「ハンカチ?」
「うん、誕生日プレゼント」
「え、くれるの?」
「大体さ、知ってたんだよね、名前の誕生日ぐらい」
「ホント?あんなに反応薄かったのに?」
「好きな子の誕生日を覚えるくらい、当たり前でしょ」
いきなりの告白に動けない私に、幸村は更にこう言った。
「俺がわざわざ名前のために買ってきたんだから」
大事に使いなよ。
幸村は顔を赤くして笑った。