くつ箱。
一日の授業も終わり。
せっせと帰る準備をした私はチャイムが鳴って、すぐこの場所まで降りてきた。


今日は部活が休みだ。
テスト期間に入ってしまった。


友達に、一緒に勉強しないかと誘われたが、断った。
テストのことなんて忘れて、喋りこんでしまうのは明らかだから。



さあ、帰ろう。



ローファーのつま先をコンコン、と地面に軽く叩きつける。





そんな私にかけられたテノールボイス。


「名字は一人で勉強する派なんか?」


「え、うん。だから急いで帰ろうとしてるつもりなんだけどな」


現れたな、伊達メガネ。




「もしかして呼び止めてしもた感じ?」


「うん、そんな感じ」


「それは堪忍な」


別にこんなことで怒ったりはしないけど。




「別にいいけど。忍足も一人で勉強する派?」


「まあ、ホンマはそうなんやけどな、」


言いかけて忍足は私の後ろに視線を移す。


私は後ろを振り返ってみる。






「ああ、彼女さんね」


私の背中側、少し離れた場所にいるのは違うクラスに所属している忍足の彼女。





「あいつがどうしても分からへんところがある、言うて今回だけ特別っちゅう感じで一緒にお勉強会や」


「かわいい彼女さんだよね」


女の私から見ても、その子は本当に可愛い子だった。
こっち見て手、振ってる。


私は笑顔で、軽く会釈を返す。


「そうやな、でも面倒くさいお嬢様やろ」

面倒くさいなんて言った割には、愛おしいものを見る目で忍足の瞳は彼女をとらえている。


「そんなところも可愛いって思ってるんでしょ」


「余計なお世話やで、名字。さ、お互い帰って勉強するで」


ほな、また明日な。って言って忍足は彼女と帰って行った。

忍足の照れ隠しなんて全然かわいくない。








なんて、お似合いのカップルなんだ。
ため息が出る。
お互いが好き同士っていうのがひしひしと伝わってくる。


私があいつの心の隙間に入り込むことなんてできないことがはっきり、分かる。

あいつの心が私のほうを向くことなんて無いのにな。

いらない期待は捨ててしまいたい。








「さあ、勉強するために帰ろうか」








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