寒い、寒すぎるよサエさん。
今日も今日とて私の横を歩くサエさんは、マフラーに顔をうずめて頬を赤くしている。
きっと私は、トナカイもびっくりするほど赤い鼻をしているだろうけど。
「サエさん、サエさん、今日もすっごく寒いね。登校中くらい暖かくなってほしいよね」
「そうだね、今年一番の冷え込みって天気予報で言ってたくらいだからね」
「でもさ、今年一番の冷え込みって毎日聞いてる気がするんだけど」
「そうかもね」
これじゃあ海に行けないな、なんてサエさんがぼそりと呟いた。
「でさ、この寒さはさ、マフラーの大切さが身に染みるよね、サエさん」
「本当そう思うよ。首を温めるだけで結構違うからね」
「ホント、馬鹿みたいに寒いね」
「うん、馬鹿みたいっていうか、マフラーを忘れた君は本当に馬鹿だね」
「・・・サエさんってひどいよね。私さ、寒さに対して馬鹿って言ったんだけど」
「あれ?てっきり名前は自分の馬鹿さに気付いたのかと思ったよ」
閉口せざるを得ない私。
こんな日にマフラーを忘れてくるなんて、どうかしてるよ私。
でも、自分の馬鹿さには結構前から気付いていましたけどね。残念ながら。
「サエさーん、マフラー貸してよー」
「マフラーっていいな。暖かいな」
ちくしょう。
すると、いきなりサエさんが足を止めた。
「しょうがないな、名前ってば俺が居なかったらいつもどうしてるの?」
サエさんはいつもこうだ。いつも、優しい。
今だってこうして、自分のマフラーを私の首にかけてくれてる。
いいの?ってサエさんを見上げれば、名前、寒いんでしょ?だって。
「サエさんごめんね、ありがと」
「名前のおかげで寒さで目が覚めたよ」
照れ隠しにそうぼやいてどんどんと歩みを進めていくサエさん。
「やっぱり名前のことは放っておけないね。心配になる」
「私の保護者みたいにってこと?」
「うーん、なんていうか、名前のこと見てないとこっちがハラハラするって感じかな」
「なにそれ」
「しょうがないからずっと一緒にいてあげるって意味だよ」
「ずっと私と一緒にいたいんでしょ」
「それは名前がでしょ」
あー寒い寒いなんて言いながら私から目をそらすサエさん。
「サエさん寒そうだから手つないであげてもいいよ」
私がそう言うと、何故だかぬくもりは唇から伝わってきた。