ねえ若、いいものあげよっか?
本を読みながら「別にいらないです」なんて可愛げのないことを言うのは日吉若。
どうせ読んでるのは学校の怪談とか、学校の七不思議とか、そこら辺だろう。
とても可愛げがない。
そんなもの読む暇があるのなら、私を構えってんだいこんちくしょう。
「そんなこと言わずに受け取ってよー。せっかく買ってきたんだからー」
ちらり。
一瞥をくれるとすっと手を出す若。
そこに一つのストラップをちょん、と乗せる。
「…何です?これ」
「くまさん」
「…馬鹿にしてるんですか?」
「バカになんてしてないよ。プレゼント。若に似てるでしょ?そのクマちゃん」
そう、いま若の手のひらにちょこんと乗っているのは水色のテディベアのストラップ。
本来かわいらしいはずのテディベアだが、この子はちょっと口が歪んでいる。
そんなところがいつも仏頂面の若に似ている。
若はてのひらを見ながら「誰がこんなものと…」なんて言ってる。
ま、大体リアクションの予想はついてましたけどね。
「はいはい、ホントはちょっとバカにしましたよ、っと」
「あっ」
口の歪んだクマちゃんを取り上げてから若に言う。
「若はさ、こういうのあげても使ってくれないでしょ?だから私が買った、もう一つのピンクのとセットで付けようと思ってね」
こちらを少し睨む若は、いまだにてのひらを上に向けている。
ちょっと怖かったから、クマの代わりにポケットに入ってあったアメを乗せておいた。
「…名前さん」
乗せられたアメから目を離し、若はこちらを向く。
「それ、返してくれます?」
はい?
「そのクマ、俺にくれたんでしょう。誰もいらないなんて言ってません」
言ったけどね。最初に。
「だって若どこにも付けてくれないでしょ」
「だから、だれも付けないなんていってないでしょう。だから阿呆なんですよ、あなたは」
アホって、関係ないじゃん。
「名前さんはその、ピンクの、使うんですよね?」
「うん、その青いのと色違い」
若は少しためらった後
「……そういうの、嫌いじゃないんでしょうがないから付けといてあげますよ」
だって。
若はこういうところがかわいいんだから。
私は少し、笑ってしまった。