さあ、ぎゅーっと、いっちゃってください。


「おい、どうした名前。暑さで頭やられたか」


私は今、バネさんの目の前で大きく手を広げている。
失礼な言葉を吐いたバネさんを無視し、今もその体勢は続行中だ。

「なんだいなんだい黒羽さん、大胆にいっちゃいなよ。ほら」

「大胆にいっちゃってんのはお前の頭だっての」

黒羽、本日2度目の暴言である。




夏休みもど真ん中。今日も今日とて馬鹿みたいに暑い熱い。
そんな日は、お家でゆったりとクーラーで涼むのが一番である。
でもでも私はどうしてもバネさんに会いたくなってしまったのだからあら大変。
アイスがあるから!とか、クーラーガンガンで待ってるから!とかなんとか言って来てもらっちゃったのである。お疲れ黒羽。

そして実はまだ玄関なうな私とバネさん。
そう、バネさんは我が家に到着したばかりなのだ。



「おい名前、とりあえずクーラーの効いてる部屋に案内してくれ。俺は今、お前のために流した汗で意味分からなくなってるから」

「バネさんぎゅーって」

「汗引いたらな」


おいおい黒羽よ、勝手に部屋に上がり込もうとするなよ。家の持ち主の意見は無視ですか。


「はいはい、バネさんぎゅー」


バネさんが私を無視するもんだから背中に自らぎゅーってしてやった。


「ははっ、バネさん夏のにおいがしますねー」

「なんだよ、夏のにおいって」

「汗臭いってことですよー」

「悪かったな」



クーラーの効いた私の部屋に着くと、バネさんはさらに扇風機のスイッチを入れる。まだ私はバネさんの背中にべったりだ。

「ちょっと一回離れてくんねえ?」
扇風機がそろそろ寒く感じ始めたころだった。
素直に従うよ、私いい子だから。


「っと、はい。名前をぎゅー」

あ、夏のにおいが一層濃くなった。







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