「ここが赤也の家?」
「そうっす」
場所はなんとなくでは知ってたんだけどね、なんて俺の家をまじまじと見つめる名前先輩。
対して俺は見慣れすぎたこの家を見て心臓をばくばく言わせている。
ついに、ついに名前先輩が俺の家に…!
「じゃあ、どうぞ」
若干どぎまぎしながらも俺の部屋に先輩を誘導する。
今はこの家に誰もいない。
「わっ、ホントだ。赤也のくせに部屋がきれいだ」
「ちょ、赤也のくせにってひどくないすか」
じゃあコーラでも持ってきます、と言って部屋を出る。
背中に「午後ティーがいい」という声が投げられたが
適当に「無いっす」とだけ言って階段を降りていく。
いつもは俺しかいないあの部屋に、今は名前先輩がいる。
なんて違和感。そしてどきどきする。
名前先輩はどんなことを考えているのだろう。
そんなのは余裕ゼロの今の俺には、知る由もないのだけれども。
台所で少し落ち着きを取り戻してから2階へ戻る。
もちろんコーラとコップも忘れない。
「あーあ、体に悪そう」
なんて言いながらコーラを飲む名前先輩。
「とか言って飲むんじゃないすか」
「嫌いじゃないもん。むしろ好きだよ」
それは不意打ちだった。
そんな、満面の笑みで“好き”なんて。
分かってる、分かってるんだ。俺だって。ちゃんと理解している。俺に向けられたわけではないことは。
この、体に悪そうな液体に向けられた言葉だってことぐらい。
でも、でもこの言葉は俺が、俺がずっと内に秘めてた、秘めれていたかどうかは分からないけど、ずっと言いたかった言葉で。
そして、出来ればこの人も、同じ気持ちであってほしいという願いのこもった言葉であって。
「そういえば赤也、今日はなんで家なの?」
俺の心臓の音なんて、さも気づいていないように先輩から発せられた言葉。
ああもう、俺、もっと、こう、雰囲気とかさ、色々と考えてたのに。
「好きだから」
「え?なにが?」
俺とは打って変わって緊張感の“き”の字もない名前先輩。
こっちはあんたのせいでどっきどきのばっくばくだっていうのに。
「俺は、俺はずっと名前先輩のことが好きなんです。きっと、出会ったときからずっと。今までみたいにぐだぐだと名前先輩と居られるのもいいけど、俺は、その、先輩の彼氏に、なり、た、い」
勢いはどんどんなくなり、最後は机の上にある液体に視線を合わせた。
ああ、かっこわりいよ、俺。
本当はもっと男らしく決めたかったんだけど。
時すでに遅しっていう言葉が頭の隅に浮かんできて、こんなときに使うのかって、人事みたいに考えた。
「せん、ぱい?」
ちらり、怖くて勢いよく上げられない頭を少し起こす。
ばっちり、先輩と目が合った。
「赤也」
目が合ったまま名前先輩の声がその部屋に響く。
「赤也、私、うれしい、よ。まさか赤也からそんなこと言ってくれる日がくるなんて、私思ってなかったよ。本当は赤也と同じこと思ってたんだけど、最悪、このままの関係でいいかなって、そんなこと思ってて、えと」
名前先輩も、あたふたしながらだけど俺に気持ちを伝えてくれる。
「今日だって、赤也がいきなり家に来て、とか言うから、ちょっとは期待していいのかな、とかさ。でも赤也のことだから何も考えてないのかなとか。部屋来たら来たで、勝手にドキドキしちゃうし、どう座ればいいかも迷うくらいだったし。嫌われてはないとは思ってたけど、いやむしろ好かれてるとは思ってたけど、はっきり言うのは今更感もあるし、違ったら恥ずかしいし、ああ、もう、好きだよ、赤也」
最後に少し力強く発せられた言葉は、俺がずっと待っていた言葉だった。
どうしたらいいか分からなくなって、とりあえず名前先輩に抱きついておいた。