「アジサイってさ、今の時期の花だよね!?ねえ!?」
「お、落ち着けよ名字。俺が知ってるアジサイはこの時期のもんだと思うぜ」
「だよね!?」
じゃあなんで花屋さん3件も回ってアジサイが無いのー!?
なんて叫んでるのは同じクラスの名字名前。
そして、どうしてこうもコイツがうるさいかと言うと、名字の憧れの先輩であるらしい乾先輩の誕生花がアジサイだからであるというのが理由である。
ちなみに今日が乾先輩の誕生日だ。
「なんでだと思うよ桃城。昨日私は雨の中花屋さんを3件も回ったんだよ!!そして3件以外に花屋さんを私は知らないよ!!花屋さんだったらアジサイくらい置いてるでしょ、普通は!!」
「俺に言われたってだなあ」
「どうしよ、桃城。他に何もいい案が浮かばなくて気づいたら3日だよ。今日だよ。どうしよ」
「他に誕生花っていうのは無かったのかよ」
「いや、あったけどさー知らない花だったんだよね」
「あ、っそう」
こいつ女じゃねえよ。
「大体よお、もしアジサイ買えたとしてもさ、お前乾先輩にそれ渡せる勇気あるのかよ」
「ないよ!!」
嫌に元気だなおい。
「桃城、あんた桃城でしょ。どうにかしてよ」
もう駄目だこいつ。
あの汁だけの変わった先輩を、憧れの先輩とか言ってるこいつも変わってる。
でもまあ、先輩とこいつは意外と息が合うかもしれない、かもしれない、と俺はひそかに思っている。
「あ!そうだ、折り紙!!」
「は?折り紙?」
「うん、折り紙でね、私アジサイ作れる!!小さいのいっぱい合わせて作るやつ」
「いや、それは知らねぇけどさ、今折り紙持ってないだろ」
「…あー、はい」
もーどうしよー。
とか言いながらノートをちぎって小さい花を折っていく名字。
「また今年も何もできずの終わるのかー。やだなー」
桃城も手伝ってよ。
って言って正方形に切られたノートの切れ端を渡された。
名字から一方的に乾先輩の素敵なところを聞きながらアジサイを折っていたときだった。
「海堂はいるかい?」
あ、乾先輩。
隣を見ると、名字の手元のノートがぐしゃぐしゃになっていた。
「おい名字、これでいいから渡しちゃえばいいんじゃねーの?」
って、コイツ聞いてない。乾先輩のことガン見してる。
いきなりガタガタと机を揺らしたかと思えば、折った花を両手いっぱいに持ち、乾先輩の方へ向かっていった。
あ、俺の折ったのも入ってる。
「あ、あの、乾先輩!え、と、ハッピーバースデーです!」
次の瞬間先輩に降りかかるアジサイの花たち。もといノートの切れ端。
名字が折った花を先輩に投げたのだ。紙吹雪のように。
会話をしていた乾先輩と海堂はあっけにとられている。
そうしている間に名字はどこかへ駆けて行った。
「これは、想定外、だったな」
なんて逃げて行った名字の後姿を見ながら乾先輩がつぶやく。
乾先輩のマル秘ノートに、アジサイの一つが貼られたのと、実験室に完成したアジサイが飾られたことは、また別の話。