「…ウツギ、ねぇ」


パタン、と本を閉じながらつぶやくのは、今日も隣に座っている名前。



「ウツギ?卯の花のことだな。しかしそれがどうした、名前」

チラリ、と名前の方を向き、すぐに自分の本へ目線を落として返事を待つ。



「あぁ、そうそう、卯の花のことなんだけどね。それが柳の誕生花なんだって」



「ああ知っている」


「あっそう」


「…。他にもかすみ草、バラのピンクとダマスクローズなどが俺の誕生花だ」


「自分の誕生花まで知ってるの?女子みたい」


「女子とは心外だな。ちなみに名前の誕生花は、」


「あ、いいよいいよ。自分で探す」


「…。」







2人の空間には俺と名前がページをめくる音が響く。


時々、名前のあくびをする音がまぬけにひびく。










「あ、でね、ウツギなんだけどね、」



まだ続いていたのか、ウツギ。

「ああ」


「花言葉が古風・風情・秘密なんだって。柳にぴったりだねぇ」


さして何とも思っていないような口調で俺に話しかける。


「柳ってば古臭くて、パソコンより本派だし。ワードとかエクセルよりノート派だし、メールでは絵文字使わないし。着物が似合いそうで、風鈴とか好きそうだし、あ、うちわとか?扇子のほうが好き?他にもザーザー降る雨よりしとしと降る雨の方が似合うし。カラフルなアメリカのお菓子とかよりも羊羹のほうが似合うね。あと秘密と言えばデータのこととか秘密ばっかり」



いきなりペラペラと話しだしたと思えば、花言葉についての意見を言っていたのか。


最後の秘密については何故だか少し頬をふくらませながら口をとがらせていた。




「あのね、他のバラとかすみ草の花言葉も調べたんだけどね、ダマスクローズのバラは美しい姿、だって。女子だね」



「さっきから女子、女子と。俺を何だと思ってるんだ」


「物知り蓮二くん」



ため息しかでない。



「で、かすみ草は親切。人に親切してますか?柳さん」



「そうか、今度のテストは自力でがんばるのか」
「親切です!柳蓮二くんとても親切です!ぴったりです!」



本当は自分でがんばってもらいたいものだが。










「温かい心」



いきなり。いきなり名前が小さくつぶやく


名前の次の言葉を待つ。




「温かい心っていうのはね、ピンクのバラの花言葉なんだって」


俺の目を見て言う。


「この言葉が蓮二にはよく似合うね」



なんてまっすぐな笑顔で俺に言うから。



パタン。



手元の本が閉じられる。



「どうしたー。柳蓮二くんー。いきなり抱きしめられると名前さんは照れちゃいますよー」



「いいから、ちょっと黙れ」



ああ、耐えられなかった。




さらに名前は俺の胸に手を当てて
「蓮二やっぱりあったかいよー。誕生日おめでとう」
なんて、こいつは本当に。





よくしゃべるこいつの口を俺のそれでふさいでやった。





誕生日なんだからいいだろう。










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