…私、あの普通な感じが好きなんだ。
唐突に彼女から聞こえてきた言葉。
目線をたどれば、そこには人工的な赤い髪。
地毛だとか言いよったような言うてなかったような。
正直、そんなことは真田の帽子よりどうでもいい。
そしてその真っ赤な頭の持ち主は、廊下で今日もワカメな後輩とじゃれあっている。
「お前さん、あんな赤髪捕まえて普通とは、よう言えたの」
「髪は真っ赤かもしれないけど中身の話だよ。な・か・み」
「ブンちゃんは普通じゃなか。ただのこぶたさんじゃ」
「もう、仁王ったら」
やって、ブンちゃんいっつも菓子くれ菓子くれ言うよる。丸いこぶたで十分じゃ。
横で名前がなんかブツクサ言うよる。
「だって幸村くんは神の子っていうより神だし、真田は武士でしょ?柳はなんか怖いし、柳生の紳士はやりすぎっていうか…。あ、ジャッカルはハゲだし」
…ジャッカル。
「それじゃあ、俺はどうなんじゃ?」
「仁王も普通じゃないよね。何考えてるか分かんないようなところとか」
「そうかの?俺は普通じゃよ」
「その方言も謎!」
「それは俺の地元に文句言いんしゃい」
「じゃあ地元ってどこ?」
「…ピヨッ」
「ほらおかしいじゃん」
けたけたと隣で笑う彼女が愛おしい。
ふと、彼女の笑い声が途絶えた。
目線をたどればそこにはワカメな後輩は消えていて、美人と噂の女子がおった。
ブンちゃんの顔を見ると、頭に負けずおとらずの真っ赤じゃった。
彼女はブンちゃんの想い人っていう訳じゃ。
もちろん、それは名前も知っている。
なんたって本人から相談を受けたのだから。
「…やっぱりさ、普通な私じゃダメなのかな。特別な美人さんがいいのかな?」
一気に下がる名前の声のトーンと目線。
「名前が一番かわいいぜよ」
「…うん、ありがと、にお」
月並みなことしか言えない俺を名前はどう思っているのだろうか。
いや、ブンちゃんのことしか考えとらんか。
本当に名前が一番なのに。
恋するオトメみたいな俺は普通の男の子じゃというのに。
なんで名前はブンちゃんなのかのう。
あれ、普通ってなんだっけ。