まだわたし用の指令室が決まらない。
かと言って、今更棲み馴れた医務室にも戻れなくて。
仕方なくロイの指令室を間借りして始まった、わたしの軍人生活。
久しぶりにリザと顔を合わせてみれば、涙を眼に浮かべてわたしを見ていた。
そんな真っ直ぐな眼で見て貰う価値なんか、わたしにはないのに。



「ハボック、紅茶淹れて頂戴」
「良いっすけど、ティーバックで我慢して下さいよ」
「いいわ。ミルクティーにしてね」

ロイの部下たちとは顔見知り程度だったけど、中央に異動してきてすぐに打ち解けた。
わたしを女だと思って見下したりはしない。
そういう部下に育ててきたロイは、もしかしたら無能ではないのかも知れないとも思う。

「猛毒の。私の部下を顎で使うのはやめたまえよ」
「いやぁ。俺、綺麗な上司に使われんのは嫌じゃないっす」
「誰が綺麗なのかね。言っておくが、猛毒のは女ですらないぞ」
「あら、心外だわ。わたしは生まれた時からか弱い女よ?」
「私より腕っ節の強い女をか弱いと呼ぶのはどんなもんだろうな。図々しくすらあるな」
「だとしたら光栄な事だわ。イシュヴァールの英雄に負けを認めさせた、なんて自慢できるもの」
「負けたとは言ってないぞ」
「でも確かに体術じゃ、あなたに負けたことはなかったわ。最も、あなたがわたしを女と思って手加減するようなひとじゃないとしたら、だけど」
「貴公相手に手加減しては、こちらの命がいくつあっても足りんよ」
「あの時の、わたしに喰らい付くあなたの眼は素敵だったわ」

山積みになった手元の書類。
流れるように書かれるサイン。
厭味のやりとりに呆れる部下たち。
ロイが投げる、冷ややかな視線。


「貴公は本当に口が減らんな」
「お褒めに与り光栄よ」
「褒めた覚えはないのだがね」
「女は褒めて育てるものでしょう?」
「ただの女、ならな。貴公はそんなものになりたいのかね?」
「まさか。性別どころか命も捨てているつもりよ」
「それならば女扱いする理由もなかろう」

可愛いだけの女ではなく、ロイと肩を並べて立ちたかった。
ロイと同じ視線で物事を見られる女になりたかった。
その為には普通の女としての生き方は捨てなければいけなかった。
けれど普通の女として生きていれば味わえたであろう幸せなんか、メじゃないくらい。

だって、幸せだから。



「猛毒の。初陣といかんかね」

電話を取ったリザが、青い顔をしてロイに何かを耳打ちした。

「わたしの初陣に相応しいかしら?」
「そうだな。いや、猛毒のにわざわざお出まし頂く程のヤマではないがね」
「それなら、」
「肩慣らしといこうじゃないか。それに雑音を消すのは早い方が良い」
「ノイズがあなたの耳にも届いていて?」
「ああ。思わず耳を塞ぎたくなるくらい、センセーショナルなノイズが山の様に」
「チューニングは自分でしろ、ってね」
「そういう事だ」
「お心遣い痛み入るわ、マスタング大佐」
「礼には及ばんよ、バラッシュ大佐」
「リザ。上にアマリア・バラッシュが出向くと電話をしてくれる?」
「わ、私もご一緒させて下さい」
「見くびらないで。護衛なんか、邪魔なだけだわ」


リザの唇が微かに震えたのを、見ないふりした。
ロイが愉快そうに喉の奥で笑った。


「見学なら許すわ、リザ。ノイズの元を引き連れていらっしゃいな」
「…バラッシュ大佐」
「猛毒の錬金術師アマリア・バラッシュの闘いぶりを存分に見て貰おうじゃないの」


五月蝿い外野は実力で黙らせる。
だってわたしには、それだけのちからがある。
見世物になるのは性分じゃないけど、ショウをやるのも悪くはない。


「手加減したまえよ。貴公が暴れると被害が拡がり過ぎていかん」
「あら。それならわたしに玩具なんか、与えなければ良いのに」
「聞き分けのない事を」
「わたしが聞き分け良かった事があって?」
「それもそうだな」


聞き分けが良いのは可愛い女だけで良い。
わたしの首に首輪をつけられたって、誰もわたしを手懐けられはしない。
わたしの飼い主は、わたしだ。







聞き分けの悪い子でいたい




人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -