「謁見をお許し頂き有り難うございます、閣下」
「いやなに、構わんよ」


大総統室のソファーに座るのは、これで二回目。
一回目の時は、まだ幼な過ぎた。
相対してブラッドレイの眼を見ることさえ、出来なかった。
だけど今は違う。
もう、揺らがないと決めた。
だから臆することなく、ブラッドレイの眼を見据えて対峙出来る。
逃げるわけには、いかないから。


「君はアマリア・バラッシュとして生きるのかね」
「そのつもりでここに座っています」
「シオ・リィという生き方を返上しても構わないと?」
「かりそめの夢を思いの外、長く見られました。これ以上なにも望むことはありません」
「戦火に身を投じる覚悟は出来たと言うのかね?」
「畏れながら、閣下。命を惜しんでいたのではありません。恐ろしかったのは戦場ではなく、自分の本質ですから」
「そうか、それで」
「はい。生温い世界にいたら、自分を押さえ込めると思っていました。出来れば、自分の本質が変われば良いとも。けれど、わたしの本質は何一つ変わりませんでした」


目の前のカップから湯気が立ち上る。
口をつける気にはならなかった。


「年一回の査定の度に、研究結果の報告は目を通している。随分と研鑽を積んだようだな」
「でしたらお判りでしょう。わたしの本質は、攻撃することにあります。今更それを否定するつもりすら毛頭ありません」
「私はあの時、君を見て毒にも薬にもならんと言ったな」
「はい。極端な強さは、両刃の剣です。時には味方にまで甚大な被害をもたらし、兵器とするには危なすぎます。閣下はそのことをおっしゃったのでしょう」
「ああ。今でもそう思っている。だから軍医監室で燻っていてもらった方が、世の中の役に立つのかも知れん」


ブラッドレイはそっと目を伏せた。
口許には笑みすら浮かんでいるけど、びりびりと殺気が伝わる。
多分、わたしが答えをひとつでも偽れば、ブラッドレイはきっとわたしを薙ぎ払うだろう。
一世一代の大勝負とは、正にこのことだ。


「けれど閣下はあの時、わたしと約束をなさいました。違えて頂くわけには参りません」
「国家錬金術師アマリア・バラッシュの過去を抹消し、一介の医者シオ・リィとして新たに生きることを認める。そして、本人が国家錬金術師アマリア・バラッシュに戻る事を希望した時には、軍人として国軍佐官に任命する」
「そうです。閣下はシオ・リィという生き方を下さる条件に、国家錬金術師アマリア・バラッシュとして研究を続け報告することと、シオ・リィとして士官学校卒業の後軍医になることを挙げられました」
「この15年間、よく守ってくれた」
「自負しております」
「今になって、兵器として、狗として、生きるのか」
「そこまでしてでも、護らなければならないものがあります」
「その為には己を犠牲にすることも厭わない、か」
「それがわたしのさだめであるならば、致し方ないと思っています」


微かに溜め息を吐かれた気がした。
それと同時に殺気が緩んだ。


「国家錬金術師アマリア・バラッシュ」
「はい」
「軍医監シオ・リィとしての全てを剥奪し、君に国家錬金術師アマリア・バラッシュを復帰させる。軍人復帰に関しては、場を改めて正式に任命する事としよう」
「お心、痛み入ります」
「約束はここまでだぞ」
「判っています。小娘の我が儘をお聞き届け頂き、有り難うございます」
「いくか、修羅の道を」
「はい。もう些かの懸念もなく、修羅の道を歩いていけます。どうか見守っていて下さいませ、閣下」
「存分に働きたまえ」
「はい」


ふかふかのソファーから立ち上がる時、微かにふらついた。
細いヒールで体を立て直し、ブラッドレイの前に跪いて見せる。
これは、ポーズだ。
滑稽極まりない演技でしかない。
深く頭を垂れてお決まりの台詞。


「総ては大総統キング・ブラッドレイ閣下の御為に」



ブラッドレイは満足げに、嗤っていた。









さよなら純情




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